株式会社ファイブスターズ アカデミー

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村上 徹

山之口貘

かつて、私にとってのライトバースの旗手と言えば、ラングストン・ヒューズでした。どっかへ 走っていく 汽車の75セント ぶんの 切符を くだせいね どっかへ 走っていく 汽車の75セント ぶんの 切符を くだせい ってんだどこへいくか なんて 知っちゃあ いねえただもう こっちから はなれてくんだ。(『75セントのブルース』より/木島始訳)ライトバースとは、「軽み」という意味です。日本では田村隆一が代表格だと思っていましたが、高田渡の『生活の柄』を聴いて、山之口貘の存在を知りました。彼が詩壇で無名の存在だった理由は、そのあまりに長い推敲期間にあります。一編の詩を創作するのに何年も、時には10年以…

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ただ食べるため

何気なく見ていたテレビ番組が、私の時を止めました。朝から、立ち飲みのおでん屋でカップ酒を飲んでいる中年男性に、テレビクルーがインタビューしています。夜勤でほぼ一晩中立ちっぱなしの警備の仕事が終わり、これから帰って寝るのだと答えます。年齢は私と同じ、世間ではそろそろ定年を迎える年です。そしてナレーションが続きます。40代でリストラされ、その後はただただ食べるため、家族を養うために必死で職を転々としてきた。このおでん屋で2杯のカップ酒を流し込むのは、その後何も考えずひたすら泥のように眠るため。男はほんの一瞬ですが、寂しそうな微笑を浮かべました。私の時が止まったのは、「食べるため、家族を養うために必…

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部下と話すとき

私と同年代の人から、こんな話を聞きました。「20代の頃、本当に尊敬できる上司と出会いました。その時の部下はみんな、生き生きと、火の玉のようによく働きました。まるで、何かの魔法にでもかかったかのように」断っておきますが、ブラック企業の話ではありません。古い表現で恐縮ですが、「部下の心に火をつける」話です。その人はこう続けます。「でも、よく観察していたら、上司の魔法の秘密がわかってしまったんです。その上司は、部下の話を聞き終わると必ず、ぐっと身を乗り出してこう言います。『面白そうじゃねえか!』そして、すっと身を引きながら『やってみな!』その後、一拍置きます。そして今度は、ぐっと声のトーンを落として…

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フランケンシュタイン

フランケンシュタインとは、あの顔に継ぎ接ぎがあるモンスターの名前だとばかり思っていました。そうではなく、墓を掘り起こしては数々の死体を繋ぎ合わせてこの怪物を作った、いわば生みの親である科学好きの大学生の名前だそうです。では、この怪物の名前はというと、それがわからないのです。そもそも小説では、名前が与えられていません。18才のメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィンが、スイスのレマン湖の畔で、うち続く長雨の退屈しのぎにこの物語を創作したのは、今から約200年前。原作には、怪物の名前どころか、顔に継ぎ接ぎがあったとも書かれていません。つまり、その後作られた映画やアニメが、この怪物のイメージを決定づ…

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危険なセリフ

ある保険会社の調査ですが、『社会人1・2年生のやる気を奪う危険なセリフ』というアンケート結果が発表されました。一位は「この仕事、向いてないんじゃない?」です。確かにこれは凹みますよね。しかし、どんな仕事でも、最初から向いている人なんてそうそういるものじゃありません。そう言ってる上司や先輩だって、長く続けているうちに仕事に慣れたのではありませんか?二位が「ゆとり世代だなぁ」。これは日本の教育制度の問題であり、新人クンに責任はありません。いわば、○年生まれだからダメと言われているようなもので、ちょっとかわいそうな気がします。以下、「やる気ある?」、「常識でしょ」、「私が若い頃は・・・」と続きます。…

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エピジェネティクス

今回は、お詫びから始まります。2009年7月のブログで、「獲得形質は遺伝しない」と書きましたが、実は誤りでした。まず、「獲得形質の遺伝」から説明します。例えば、あまりのメタボ体型に嫌気が差し、一念発起してジムに通い、あのCMのようなムキムキのマッチョマンになったとします。しかし、その後あなたに子供ができても、その子までマッチョになるとは限りません。つまり、マッチョな体は遺伝ではなく、後天的に獲得した形質なので、遺伝はしないと考えられてきました。これを主張した科学者は、何代にも渡りネズミの尻尾を切り落としましたが、そのネズミから尻尾の短い仔ネズミが生まれてくることはありませんでした。そのため、獲…

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万有引力

ニュートンが、木からリンゴが落ちるのを見て、地球に引力があることを発見したという話は、半分本当ですが半分はウソです。「万有」という言葉が表しているように、すべてのものは、引力を持っています。すなわち、地球は引力を持っていますが、リンゴの方も引力を持っているということです。ですので、正確に言うとこうなります。地球とリンゴは、お互いの引力に引き寄せられて近づき、最後には衝突してしまった。詳しい数値は後で示しますが、まず万有引力について説明しましょう。ニュートンが1687年に「プリンキピア」の第3編、命題4、定理3で論証したのは以下のことです。2つの物体の間に働く引力は、それぞれの物体の質量の積に比…

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成功している生物

もし、知性を持った宇宙人が地球を発見し、もっとも成功している生命体を探したら・・・。福岡伸一の答えは、意外にもヒトではありませんでした。ちなみに、ここで言う「成功」とは、進化のプロセスにおいてもっとも効率よく増殖し、より多くの子孫を残すこと。生物学的に言うと「自己複製に成功している生物」ということです。ヒトは個体数約69億、平均体重50キロとして、その存在量は約3.45億トン。かなり繁栄しています。ところが、もっと繁栄している生物がいるのです。存在量でヒトを圧倒しているだけでなく、なんとその存在量を毎年毎年新たに生み出しているのです。さらに驚くのは、ヒトを奴隷化して自分の世話をさせ、その褒美に…

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智に働けば

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。お馴染みの、夏目漱石の『草枕』の一節です。この世が住みにくいかどうかは別として、なるほどと思うところは多いにあります。会議などの席であまりに理論だてて発言すると、それは理屈だなどと反論を受けることがあります。しかし、情に訴えるといっても、あまりに感情移入し過ぎると、今度は歯止めがきかなくなり、収拾がつかなくなることもあります。また、こちらとしては筋を通したつもりでも、意地っぱりだとか、頑固者などと陰口を叩かれたりもします。ですので、漱石の言わんとするところは実によくわかります。ところが、森本哲郎が知り合いの…

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ソニー・ロリンズ

題名は忘れてしまいましたが、倉橋由美子の小説に、「毎日ジャズ喫茶に通っているうちに、『モリタート』のアドリブまですっかり覚えてしまった」という一節がありました。それくらい、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』は、空前の大ヒットを記録したアルバムです。当時のジャズ喫茶で、このアルバムがリクエストされなかった日は、一日たりともなかったと言っても過言ではないでしょう。しかし、私はあまり好きではありませんでした。明るすぎるのです。このアルバムの代表作である『モリタート』といい、『セント・トーマス』といい、まるで太陽が燦々と降り注ぐカリブ海の砂浜で、陽気においしいカクテルでも飲んでいるかのよう…

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