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5☆s 講師ブログ

ひと晩寝て考えなさい(2)

マンチェスター大学の「睡眠と記憶の研究所」所長で脳神経科学者のペネロペ・ルイスは、世の中一般に通用する「夢」の定義は存在しないと言います。
強いて定義するなら、「睡眠中に経験するすべての知覚、思考、または感情」となるだろうとのこと。

人類が誕生して以来、毎晩見ているはずの「夢」ですが、未だに定義がないなんて本当に不思議です。

ところで、睡眠は記憶の定着に一役買っているという報告があります。
試験の直前に徹夜で勉強する学生がいますが、一睡もせずに勉強するよりも、学習直後に睡眠をとった方が記憶が定着しやすいことがわかっています。
ただし、翌日テストがあることを知らされていないと、この効果はないそうです。

昼寝も有効ですが、もっと大切なことは、学習前にも睡眠をとっておくことです。
事前に睡眠をとっておくことと記憶の定着の関係について、カリフォルニア大学バークレー校のマット・ウォーカーが面白い実験を行っています。
ウォーカーは、36時間寝ずに過ごした後で目にした単語が、どれくらい記憶に定着するのかを調べました。

不眠から2日後、完全に睡眠不足を解消した状態でテストを実施したところ、意外な結果が得られました。
当然、記憶力はかなり落ちていたのですが、なぜかネガティブな感情に関係する単語はそれほど忘れていませんでした。
一方、睡眠をしっかりとったグループは、ポジティブな感情に関係する単語の方が記憶に残っていました。

どうやら、睡眠不足だとネガティブな記憶が残りやすいようです。
旅行でホテルや旅館に泊まると、枕が変わったため寝つきが悪くなったという人がいますが、その分楽しい思い出が割り引かれている可能性があります。
よく眠ることはとても大切なことなのですね。

記憶の定着に関して言うと、かつて「睡眠学習」というのが話題になったことがありました。
睡眠中に聞いたことを、脳が勝手に記憶してくれるというもので、もし本当ならそれこそ夢のような話です。
でも、残念ながら睡眠学習の効果を実証する研究はひとつもありません。
考えてみれば当たり前の話で、睡眠中に聞いたことが自動的に脳に刷り込まれるなら、授業中に居眠りしていてもいいことになってしまいます。

ところが、驚きの研究結果が発表されました。
2006年ドイツのリューベリック大学のリサ・マーシャルらが、画期的な実験を行いました。
tDCS(経頭蓋直流電気刺激装置)という機械を使って、ノンレム睡眠中に現れる徐波の周波数(0.75Hz)の刺激を与えることで、徐波を増強することに成功したのです。
前日に単語のペアを覚えてもらい、翌朝どれだけ記憶として定着したのか調べたところ、なんとよりたくさんのペアを覚えることができていました。
一方、5Hzの刺激では変化はありませんでした。

その後の実験で、学習中に刺激を与えても同様の効果があることが分かりました。
睡眠学習は無理としても、将来「記憶力増幅装置」のようなものが開発される可能性は十分あります。
これは、認知症患者にとってはかなりの朗報です。

イタリアのロベルタ・フェルッチらのグループは、アルツハイマー病患者にtDCSで側頭頭頂接合部の両側に刺激を与えると、単語の記憶力が上がることを実証しています。
tDCSに関しては、アメリカですでに小型のものがネットで売られており、大学生の頃これを使って成績をアップさせたという人がBS-NHKの番組で紹介されていました。
記憶力だけではありません。

ニューメキシコ大学のビンセント・クラーク博士らのグループは、アメリカ国防総省の研究機関から資金提供を受け、戦時下の街角に仕掛けられた危険物を兵士がいち早く発見できるよう、tDCSを使った研究をしています。
具体的には、モニターに2秒間だけ提示される画像の中にある危険物を見つけるというもので、tDCSを使って左脳の働きを少し抑えてやると、右脳が活性化して格段に成績がよくなるそうです。

でも、なぜ右脳が活性化すると見つけられるのでしょう?
映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたことで有名になった、「サヴァン症候群」という人たちがいます。
主人公のモデルになったキム・ピークという人物は、読破した1万冊以上の本を一字一句記憶することができたそうです。
なんでも、キムは見たものを写真のようにそのまま映像として記憶してしまうのだとか。

一度聞いた音楽も完璧に覚えていたそうです。

このサヴァン症候群の人は、例外なく左脳より右脳の方が発達していることがわかっています。

キムの脳は人と違っていました。
右脳と左脳を繋ぐ脳梁が生まれつき欠落していたのです。

サヴァン症候群の研究を専門に行っている、アメリカのトレファート研究所のジェレミー・チャップマン博士によると、サヴァン症候群の人は脳の右半球の扁桃体核や尾状核が左半球のものに比べて大きく、さらに右半球全体の体積自体も左半球より大きいことがわかっています。

先天的なものではなく、事故などで脳に障がいを受けた人が突然素晴らしい絵画を描いたり、作曲ができるようになることがありますが、これは「獲得性サヴァン」と呼ばれます。
これらの人たちを調べてみると、全てのケースで脳の左半球が損傷していました。

一般に、左脳は優位半球として右脳の働きを抑制する働きを持っています。
この抑制が弱まったため、右脳と左脳の使い方がアンバランスになり、眠っていた右脳の才能が開花したのではないかと考えられています。

つまり、クラーク博士らの実験は、tDCSを使って人工的に「プチ・サヴァン症候群」のような状況を作り出していると言えるかもしれません。

今後tDCSは、学習の補助用機器として開発されていくのではないかと思われます。
近い将来、tDCSを内臓したスマホが販売されるかもしれませんよ。
電子機器を開発するのは大変ですが、どうやらもっと簡単な方法があるようです。

同じリューベリック大学のビヨルン・ラッシュらは、香りに注目しました。
被験者にトランプの「神経衰弱」に似たゲームをさせて、カードの位置を覚えるという課題に取り組んでもらったのですが、その際周囲にバラの香りを漂わせておきました。
その後、被験者には研究室で一晩眠ってもらい、翌朝どれだけ記憶が残っているかを調べたところ、徐波睡眠中に再びバラの香りを嗅がせたグループだけ格段に成績がよかったのです。

さらには、「香り」ではなく「音」を使った実験でも同様の効果が確認されています。
睡眠中に記憶の定着を高める手法は、他にもいろいろありそうですよね。

ところで、難しい問題に取り組んでいる時など、夢を見ている時に答えが見つかることがあります。
不思議なことですが、学問上の歴史的発見に関しては、睡眠中に脳が勝手に問題を解いてしまった例は山ほどあります。
ロシアの化学者ドミトリー・メンデレーエフは、元素の原子量と化学的特性の関係の研究に没頭していました。

しかし、研究の疲れからか、ある日研究室で寝落ちしてしまいます。
すると、夢の中で元素が原子量の順に並んでいる表が現れました。
目覚めた彼は、手近な紙に大急ぎでその表を書き残したのですが、これが後の「周期律表」となりました。

化学に関しては、もっと有名な話があります。

 

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