株式会社ファイブスターズ アカデミー
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二階から田中のダミ声が飛んできます。
「朝日の言いなりになってたまるかあー」
永井も負けじと大声で言い返しました。
「若い大臣が図に乗ったら承知しないぞ」
実は、念のため一芝居打とうと、両者は事前に打ち合わせをしていたのでした。
そんな事情を知る由もない記者たちが、大慌てで飛んできます。
要するに、その場にいた全員が騙されたわけです。
靴底を磨り減らして現場で走り回っている政治記者は、自分の会社の上層部が政治家とズブズブの関係にあることを、一体どこまで知っているのでしょう。
知っていたら、やりきれない商売ではあります。
直後にテレビ局の割り当てが発表されましたが、免許交付を渋る郵政官僚に田中が発破をかけた結果、全国に新設された民放局の数はなんと36。
いきなり、それまでの10倍に増えたのです。
当然、ここでひとつの疑問が湧きます。
果たして田中が、何の見返りもなしにここまで尽力するものでしょうか?
永井の回想によれば、九州朝日放送に関する朝日新聞の持ち株比率を55%にすることも、田中との間で決められたそうです。
想像を超えるほど親密な関係。
テレビ局と田中角栄との関係は、大阪朝日放送の社史の中で次のように総括されています。
「この免許作業で、田中は電波行政の妙味をしっかり会得した」
その後田中は、政治の裏表で放送利権への影響力をフルに発揮することになるのですが、裏工作の様子をここまで詳細に社史に残すのなら、「電波行政の妙味」である見返りがいくらだったのか、具体的な金額まで書いておいてほしいところです。
でも、利権の相場観を窺い知るエピソードがありました。
テレビ朝日の前身の「日本教育テレビ(NET)」社長だった東映初代社長の大川博も、政治家に多額の裏金をバラ蒔いていたことで有名な人物。
その裏金スキャンダルを、大川の追放を画策するNET会長の赤尾好夫が追及したことがあります。
赤尾は先述した旺文社の創設者。
ところが大川は、赤尾との全面対決も辞さないという強硬姿勢に打って出ます。
裏金のことが表沙汰になっては一大事。
そこで、刑事告発しないことを条件に大川に退任するよう説得したのは、他ならぬ田中角栄でした。
後年、当時東京地検特捜部長だった河井信太郎は雑誌で赤尾と対談を行いましたが、その中で河井は政治家に渡った裏金について「億万の金」という表現を使っています。
1964年(昭和39年)当時の、大卒初任給の相場は約2万円。
河合の言う「億万」という単位は、現在の価値にすると一体どのくらいになるのでしょう?
都心の一等地である目白に2,500坪を超える「御殿」を構え、選挙の度に百億円以上を遣ったと噂される田中の富を築くのに、新聞社とテレビ局は多大な貢献をしていたわけです。
ワイドショーでは「政治とカネ」の問題がしばしば取り上げられますが、そもそもメディア業界というのは政治家に裏金を渡すことで「放送」というボロ儲けビジネスを手に入れた業界です。
世間では、政治家と業者の癒着を暴くのがメディアの使命であり、それこそが「ジャーナリズム」だと思われているようですが、実際のところメディア業界は権力者と深く癒着する、所謂“ズブズブ”の関係にあります。
しかも、本来は隠蔽するべき暗部についてもまるで武勇伝を語るが如く、さも自慢気に社史に掲載する神経は「ジャーナリズム」の対極に位置するものと言っていいでしょう。
でも、メディアにとっての権力者は、政治家ばかりではありません。
「利害関係者」という名の権力者はたくさんいます。
2023年に、その「利害関係者」とメディア業界との癒着体質を、全国民に知らしめる事件が勃発しました。
芸能事務所の元社長による、少年への性加害事件です。
この事件は、イギリスのBBCと国連の人権機関から指摘されるまで、テレビ局と新聞社が二十数年に渡って完全黙秘を貫いてきた案件でした。
この案件に関して、芸能事務所と共犯関係にあったメディア業界は、都合の悪い情報は全て闇に葬るというその特質を遺憾なく発揮していたのです。
メディアが「報道の自由を守れ!」と主張するのは、「報道する権利を守れ!」という意味ではありません。
「報道しない権利を守れ!」という意味です。
メディア業界は、「利害関係者」を大勢抱えています。
メディアが報道できるのは、利害関係者に影響を与えない、ごく一部の事案だけです。
それでも、2001年にこの事務所に所属する有名タレントが警察に逮捕された時は、メディア側もさすがに報道しないわけにはいかなくなりました。
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