株式会社ファイブスターズ アカデミー

まずはお気軽に
お問い合わせください。

03-6812-9618

5☆s 講師ブログ

ウソつきの研究(3)

持ち主の名刺や買い物メモ、鍵などが入っている「落とし物」について、銀行やホテルの従業員が落とし主に連絡してきた割合は、国によって10%前後から80%前後と大きな開きがありました。

返却率が低いのは中国、モロッコ、ペルーなど主にアジアやアフリカ、南米など。
反対に高いのはスイス、ノルウェー、オランダなどの北欧諸国でした。
気になる日本ですが、残念ながら調査の対象には入っていません。
個人的には、今からでもいいので、ぜひ日本でも実施してほしいところです。

さて、興味深いのは、お金の有無によって返却率が違うのかということです。
お金が入っていると、返却率は下がるのではないかと心配されましたが、逆に40ヵ国中38ヵ国で10%ほど上がったそうです。
おそらく、「ネコババすると犯罪者になる」という意識が働いたのでしょう。

逆に、返却率が下がった国はメキシコとペルーだけでしたが、ペルーの場合その差はごくわずか。
一部の国では、千数百円ではなく1万円ほど入れたケースも試してみましたが、返却率はさらに高くなったそうです。

さて、ここからは脳科学の出番。
ウソをついている時の脳の活動はどうなっているのでしょうか?
阿部らは、fMRIやPETで脳を撮像しました。

一般的に普段の私たちの脳は、ウソをつく「悪い心」を抑えていると考えられます。
おそらく、理性を司る「前頭前野」などが活動して、「悪い心」を抑え込んでいるはず。

ところが、ハーバード大学のグリーンらのfMRIを使った研究では、金銭報酬の誘惑に負けてウソをついたグループは「背外側前頭前野」という部位が活動していました。
ここは、正直グループでは活動しなかった部位です。

つまり、脳は意志の力で「悪い心」を抑えているのではなく、ウソをつく時だけ「背外側前頭前野」の「意志の力」を借りているのです。

ということは、人はもともと正直者に生まれてきたのに、人生の様々な経験を重ねていくうちに、意志の力を借りてウソをつくことを覚えたということになります。
もしかしたら、息をするようにウソをつく人というのは、人よりずっと過酷な人生を歩んできたのかもしれません。

阿部修士らは、アメリカのニューメキシコ大学のケント・キールらのグループと共同で、ちょっと危ない実験を行いました。
fMRIを使って、なんと刑務所の囚人たちの脳を調べたのです。
科学者の探究心の強さには本当に驚かされますよね。

彼らは当初、サイコパス傾向が強い囚人は頻繁にウソをつくだろうと予想していました。
ところが、そのような傾向は全く見られませんでした。

ただし、興味深い事実が判明します。
サイコパスは、ウソをつくかどうかの意思決定にかかる反応時間が、とんでもなく早かったのです。
同時に、「前部帯状回」の活動が低いこともわかりました。
ここは道徳的な判断を行う際に活動する部位。

どうやら、もともと道徳観念があまりないので、躊躇せずにウソをつくことができるようです。
それなら、幼児期に徹底的に道徳教育を行うことで、犯罪件数を減らせるかもしれません。

さて、今までウソをつく側の研究を見てきましたが、ウソを見抜くことはできるのでしょうか?
表情研究の第一人者である心理学者のポール・エクマンによれば、ほとんどの人にはウソを見破る能力は備わっていないそうです。

彼がテストした1万2千人のうち、生まれつきウソを見破るのがうまい人はたったの20人しかいませんでした。
そうなると気になるのは、その人たちは一体何を根拠にウソと判断したかということです。
誰か、そっちの研究をやってくれる学者はいないのでしょうか?

ただ、犯罪捜査に当たる捜査員の間では、ウソを見抜く方法が経験的にいくつか知られています。
例えば、手で口を隠すというしぐさ。
これは、「ウソを言ってしまったこの口を隠したい」という罪悪感から、無意識に出てしまう動作といわれています。

また、顔を触ったり瞬きの回数が増えたりする動作も怪しいのですが、これはストレスの「なだめ行動」といわれる不安の表れであり、必ずしもウソをついているとは限りません。

視線が泳いだり、利き手と反対側の方向に視線が向いたりするのも同じです。

ただし、質問内容を再確認する行為は時間稼ぎ。

さらに、緊張感が高まると交感神経が優位になるため、早口になったり声のトーンが高くなる、あるいは滑舌が悪くなるといった変化も観察されます。
「ウソ発見器」と呼ばれるポリグラフは、このような交感神経が優位な時に起こる生理的反応を検出する機械です。

でも、素人の観察力では、これらの反応を見抜くのはちょっと難しいかもしれませんね。

元FBIの特別捜査官で、ウェスタンイリノイ大学教授の心理学者ジャック・シェーファーは、もっと簡単な方法を提案しています。
「信用のおける人は、ただ情報を伝える。そして正確に事実を伝えようと努力する。反対にウソつきは、自分が言っていることは真実だと相手をいいくるめようとする」

なるほど。

テレビドラマで、「俺の言うことを信じられないのか!」などと急に怒り出すシーンをよく見かけますが、こういうのが怪しいのですね。
いずれにせよ、ウソをつかずに正直に生きることが一番ですが、怪しげな投資話が跋扈する世の中ですから、ウソを見抜く技術も知っておいて損はないはずです。

でも、ウソというのはとても人間的くさいものではあります。

「ホントよりも、ウソの方が人間的真実である、というのが私の人生論である。なぜなら、ホントは人間なしでも存在するが、ウソは人間なしでは、決して存在しないからである。」

                 寺山修司『さかさま世界史』より

初めての方へ研修を探す講師紹介よくある質問会社案内お知らせお問い合わせサイトのご利用について個人情報保護方針

© FiveStars Academy Co., Ltd. All right reserved.