株式会社ファイブスターズ アカデミー

恋愛をしている時、脳の中では一体どんなことが起こっているのでしょう？
認知神経科学者・阿部修士の著書『意思決定の心理学』の中に、「恋愛脳」に関する面白い研究がいくつか紹介されています。

最初は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者のアンドレアス・バーテルズとセマール・ゼキが２０００年に行った実験。
２１歳～３７歳までの恋愛中の１７名(うち女性は１１名)に、脳をfＭＲＩで撮像しながら２枚の写真を見せます。

１枚は恋人、もう１枚は恋人と年齢・性別が同じで、付き合っている期間も同じくらいの友人の写真です。

恋人の方を見て活性化した部位は、「尾状核」と「被殻」でした。
どちらも「背側線条体」を構成する報酬系で、ドーパミンにより作動する部位です。
この実験は、人類学者のヘレン・フィッシャーらのグループによっても追試されています。

そこでは「尾状核」と「被殻」以外に、これも同じく報酬系の「腹側被蓋野」でも活性が認められました。

脳内の情報伝達物質に関していうと、フィッシャーはドーパミンの他に、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)とセロトニンも関係しているのではないかと推測しています。
でも、ノルアドレナリンはドーパミンと連動するのに対し、セロトニンは反対に抑制するホルモン。

つまり、ドーパミンやノルアドレナリンといったイケイケ系の物質が増えると同時に、セロトニンが減少することで冷静な判断ができにくくなっているのではないかというのです。
なんとなくわかるような気がしますよね。

ところが、女性の場合は「尾状核」の胴体部と隔壁も活性化していました。
ここは、集中度や記憶の修正に関係する部位。

なぜ、こんなところが活動したのでしょう？
もしかしたら、恋心を熱くする一方で、この男性で本当にいいのかと冷静に値踏みしているのではないでしょうか。

なお、この実験では新たな取り組みとして、「熱愛度」の測定も行われました。
どれくらい夢中になっているかを、アンケートによって数値化したのです。
すると、被験者の熱愛度は「尾状核」の活動と見事に相関していました。

でも、彼らの恋愛に関する探究心は、こんなところで留まるようなヤワなものではありません。
なんと、失恋した人についても同様の実験を行ったのです。

「失恋したばかりで立ち直れない人募集」という怪しげな告知が、いつものニューヨーク州立大学ストーニーブルック校心理学部の掲示板に貼り出されます。
集まったのは、１８歳～２１歳の１５名。

そのうち１０名は女性でした。

はたして、恋愛中の人と失恋した人とでは、脳の活動に一体どんな違いがあるのでしょうか？
意外なことに結果はほぼ同じでした。
これは、要するに「引きずっている」ということです。

そして、ここでもやはり「腹側被蓋野」が活性化していました。
他にも同じ報酬系の「側座核」や、「眼窩前頭皮質」の活性化が見られました。
最後の「眼窩前頭皮質」というのは攻撃性の制御とか、人格や社会性、さらには他者の情緒的な心の理解といった、所謂「人間性」に深く関係する部位です。
最近の研究によると、絵画などの「美」の認識も司っているそうです。
この「眼窩前頭皮質」は、後でもう一度出てきますので覚えておいて下さいね。

これら報酬系は、様々な依存癖にも関係しています。
例えばコカインへの渇望が強いほど、「側座核」の活動が高いことがわかっています。
フィッシャーは、「恋愛は一種の中毒だろうか？わたしはそうだと考えている」と述べています。

たしかに恋愛と麻薬はよく似ています。
どちらも太古の昔から人を虜にしてきました。
古代シュメールの街ウルクに、かつての女王イナンナが羊飼いの少年ドゥムジに宛てた愛の詩が残されています。

「わが最愛の人、わが瞳のよろこびよ」

使われているのは、もちろん人類最古の文字である楔型文字。
人類は５千年も前から、恋愛という中毒に悩まされていたのですね。

一方、麻薬の歴史も古く、紀元前３千年頃のスイスの遺跡にはケシを栽培していた痕跡が認められるそうです。
イナンナの詩が書かれたのとほぼ同じ時期ですが、言葉が生まれる前から恋愛は存在していたはずですから、歴史としては恋愛の方が古いと言えるでしょう。

ところで、恋に破れると大変なショックに見舞われますよね。
そこで、失恋の辛さを和らげるために昔から様々な方法が考えられてきました。

インドでは失恋した男女が結成するクラブがあります。
名付けて「心痛研究会」。

毎年５月３日を「全国心痛日」と定め、互いに話をすることで慰め合うそうです。
また、北カメルーンのフルベ族はシャーマンを雇って、恋人への想いを心から追い出すための儀式を執り行うそうです。

ところが、最近になって脳科学が失恋の際の対処法を解明してしまいました。