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5☆s 講師ブログ

なぜ給料が上がらないのか?(2)

なぜ日本企業が「価格据え置き戦略」をとることができたかというと、その分従業員の賃金を引き下げたからです。
企業や店の犠牲というのは、すなわち従業員の犠牲に他なりません。

バブル崩壊以降、賃金改定を行わない、つまり給料を上げない企業の割合はどんどん増え、2000年代初頭にはなんと25%に達しました。
13年からは減少に転じますが、これは安倍政権が経営者に賃上げを働きかけたからです。
それでも、改定幅は極めて狭く、せいぜい2%程度。

賃金の伸びを世界と比較してみましょう。
OECD(経済協力開発機構)加盟国の、2000年から2021年までの「実質賃金」の伸び率の平均を見ると、アメリカ1.3%、イギリスとフランスが1.0%、ドイツ0.8%なのに、日本はたったの0.1%。
先進国では最低の水準です。

でも、注目すべきは「名目賃金」の伸び率の方です。
名目賃金とは、企業から労働者に支払われた給料の支給額そのもののことです。
その伸び率の平均は、アメリカ3.3%、イギリス2.9%、フランスとドイツが2.3%ですが、日本は驚くべきことに▲0.2%。
なんとマイナスです!

もちろん、OECD加盟34ヵ国の中で、名目賃金の伸び率がマイナスの国なんてどこにもありません。
財政破綻した、あのギリシャでさえ0.8%です。
要するに、日本はこの20年間、先進国の中では最も給料の上がらない国だったのです。

いや、もっと正確に言いましょう。
日本は20年間給料が減り続けている、世界で唯一の先進国です。
これはとんでもない話です。

日本の給料を上げるには、一体どうしたらいいのでしょう。
経済学では、名目GDPが伸びれば、名目賃金も伸びることがわかっています。
それなら、名目GDPを伸ばせばいいと誰もが考えますよね。

名目GDPの伸び率と最も相関が高いのは、貨幣量の伸び率です。
相関係数は0.7~0.8。
だから日銀の黒田総裁は、異次元の金融緩和を実施したのです。
ところが、それでも日本はインフレになりませんでした。
この間、原材料費も値上がりしていたはずなのに。

日本の企業は、様々な値上げ要因を従業員の賃金を引き下げることで吸収してきたのです。
日銀の異次元緩和も、原材料費の値上げも製品の値上げに結びつかなかったのは、企業が従業員の給料を減らし続けていたからです。
だから、世にも稀なる「価格据え置き」戦略が実現できたのです。

インフレと給料アップの関係は、ニワトリと卵のようなものです。
インフレになれば必ず給料が上がります。
逆に言うと、給料を上げたいのであれば、インフレになる必要があリます。

気がつくと、かつて中国で作られていた100円ショップの商品は、いつの間にかほとんど日本製に変わっていました。
今や日本は、世界に冠たる「低賃金国」です。
マスメディアは「インフレを止めろ!」と叫びますが、それは「給料を上げるな!」と言っていることと同じです。

でも、従業員の給料を抑えるだけではやがて行き詰るでしょう。
そうなっても「価格据え置き」戦略を貫くためには、従業員のリストラに着手せざるを得なくなります。

モノの値段が上がらない日本を天国だと思っている人がいますが、モノの値段が上がらないということは失業のリスクが高まることを意味します。
これが果たして天国でしょうか。
私には地獄に思えます。

まぁ、働いていない年金生活者にとっては、天国かもしれませんけど。

日本がインフレにならなければ、おそらく労働者の多くは韓国や台湾に出稼ぎに行かざるを得なくなります。
マスメディアは、その事実をわかって主張しているのでしょうか?
そこまでの代償を払っても、物価の安い国を実現したいのでしょうか。

ところが、今回の世界インフレは、日本に定着していた「低インフレ予想」をひっくり返しつつあります。
2022年5月の渡辺の調査によると、「物価はかなり上がる」という予想が10%未満から40%にハネ上がっていました。
また、30%を超えていた「ほとんど変わらない」は10%以下にまで落ち込んでいます。
この数値は欧米とほぼ同じ。

しかも、「値上げされたら他店に行く」も、欧米並みの44%まで下がりました。
つまり、消費者は「他の店でも値段が上がっているのだろう」と予測しているのです。

このようなインフレ予想の上振れは、内閣府の調査にも表れています。
日本の国民は、ようやく欧米並みのインフレ予想をするようになったのです。

赤城乳業は、22年の値上げの際は謝罪CMを流しませんでした。
明らかに日本のインフレ予想は変わりました。
日本企業が「価格据え置き」の呪縛から解放される、絶好のチャンスが訪れたわけです。
これは給料が上がるチャンスです。

アベノミクスでも変えられなかった意識改革を、新型コロナウイルスがいとも簡単にやってのけたのです。

以上が、私が今回のインフレを日本経済の「福音」と考える理由です。
私たちは自分たちの給料をアップさせるために、一刻も早くインフレに「慣れる」必要があります。

インフレを当たり前のこととして受け入れることができれば、日本はフツーの国として世界の仲間入りができます。

でも、不思議に思うのは、日本にこれほどまでに強固な「低インフレ予想」を根付かせた犯人は、一体誰なのかということです。
それを解く鍵も、渡辺の研究の中にありました。

今回のパンデミックでは、健康被害と政府による介入度合いに関しては、国によって大きな差がありました。
ところが、経済被害の方はなぜかほとんど差がありません。
不思議ですよね。

渡辺はスマホの位置情報を解析することで、緊急事態宣言によって日本人の行動がどのように変容したのか計測してみました。
すると、緊急事態宣言が外出を減らした効果は、たったの8.6%しかないことがわかりました。
私たちがとった行動のうち、緊急事態宣言の発令で説明できるものは1/4程度で、残りの3/4は様々なメディアからもたらされた「情報効果」によるものでした。

つまり、政府に言われたからではなく、テレビのニュースやネットからの情報をもとに自主的にステイホームしていたということです。
日本以外の国はどうでしょう。

シカゴ大学の研究チームの調査によると、ロックダウンを実施したアメリカでも、人々が外出を控えた度合いは約7%で日本と大差ありませんでした。
つまり、法的拘束力のある措置をとったアメリカと、お願いベースの日本でほぼ同じ数値が観測されたのです。
経済被害に関して、各国間の差がなかった理由はこれです。

犯人は、マスメディアの影響力です。
国民性が違っても、ウイルスに対する「恐怖心」は同じ。

冒頭、経済学が前提としている行動の「多様性」が消失し、行動の「同期」が見られたと言いましたが、それをもたらした最大の原因はマスメディアが人々の「恐怖心」を煽ったことです。
そう言えば新型コロナの時に、ワイドショーで「煽るのがテレビの仕事」という趣旨の発言をしたコメンテーターもいました。

私は、日本の「低インフレ予想」も同じメカニズムから生まれたと考えています。
日本のマスメディアが「値上げは悪」という概念を煽った結果、企業は製品価格を値上げできず、やむ無く「価格据え置き戦略」を取ったと解釈すれば合点がいきます。

この仮説が正しいなら、日本の賃金が上がらないのはマスメディアのせいということになります。
ところが、煽った張本人であるマスメディアの賃金は決して低くありません。
大手メディアに勤務する人の平均年収は1,200万円と言われています。

週刊誌によれば、「煽るのがテレビの仕事」という趣旨の発言をしたテレビ局の社員コメンテーターの年収は2,000万円近いそうです。
自分たちは高給取りのくせに、「値上げは悪」というマインド・コントロールを垂れ流して、日本中の労働者の賃金を低く抑えていたわけです。
マスメディアの罪は本当に重いと言わざるを得ません。

かつての日本には、「インフレは悪」を絶対教義として掲げる組織がありました。
日銀です。

日銀は長い間インフレ目標の設定さえ拒否するなど、世界中の中央銀行とは正反対の行動を取ってきました。

ところが、リフレ論者の黒田総裁が就任したことで状況は一変します。
日銀マンたちは一時的に「インフレは悪」を封印し、隠れキリシタンのように息を潜めざるを得なくなりました。

でも、日銀総裁には任期があります。
来春に総裁が交代すれば、再び日銀マンの天下が来るでしょう。
そうなれば、「インフレは悪」という邪悪な宗教はすぐに復活します。

なぜなら、日銀は失業率に一切の責任を負わないことが法律で定められているからです。

再び「給料が上がらない日本」、「いつ失業するかわからない日本」に逆戻りすることは火を見るより明らかです。

それを防ぐための方法は2つあります。
ひとつは、失業率についても日銀に責任を課すよう法律を改正すること。
もうひとつは、経済苦により自殺した人の痛みを感じることのできる人を総裁にすることです。

あっ、もっといい方法がありました。
それは、総裁が交代する23年4月までに、「インフレは善」の思想が日本に定着することです。

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