株式会社ファイブスターズ アカデミー
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天地(あめつち)の間には人間や動植物だけでなく、神も住んでいました。
キリスト教やイスラム教、ユダヤ教は全て「唯一神教」ですが、日本では山にも森にも川にも、至るところに神がいます。
八百万(やおよろず)の神々もまた、私たち人間や動物や植物と共に「天と地の間の空間」に暮らす存在です。
日本における自然は、西洋のように神と共に立ち向かうべき相手ではなかったのです。
昔の日本人は、自然が時に大雨、台風、地震、噴火などの残酷な振る舞いをするのは、八百万の神々が怒っているからだと考えました。
自然の中にいる神々に対して、畏怖の念を抱いたのです。
このように、万物に霊が宿るという考え方は「アニミズム」と呼ばれる原始的な自然信仰で、それ自体は決して珍しいものではありません。
世界中に存在します。
しかし、一般に文明が発達し社会が成熟していくと、アニミズムは次第に洗練された宗教に置き換わっていきます。
ヨーロッパで森の精霊を崇めていたケルト人たちにも、やがてキリスト教が広がっていきました。
キリスト教は、アニミズムのような土俗宗教を取り込みながら勢力を拡大していったのです。
儒教の研究家としても有名な中国哲学者の加地伸行は、ハロウィンはキリスト教が土俗宗教を取り込んだ時の名残ではないかと指摘しています。
インドでは自然神を崇拝するバラモン教が普及していましたが、これももっと整理された仏教やヒンドゥー教へと発展を遂げていきます。
ちなみに、アニミズムの一種に「シャーマニズム」がありますが、これはシベリア東部や中国東北部に住んでいたツングース族の宗教者を表す「サマン(シャマン)」からきた言葉です。
八百万の神のルーツは、もしかしたらこれかもしれません。
実は、日本は先進国であるにもかかわらず、このようなアニミズム的思想が残っている世界で唯一の国です。
つまり、日本の「自然観」というのは、世界的に見ても極めて独特なものなのです。
不思議ですね。
さて、次に日本の自然と農業との関係について考えていきましょう。
日本の豊かな自然は、実に多くの恵みをもたらしてくれています。
日本は高温多湿の気候である上に、ヨーロッパに比べ土壌が栄養豊富なため、農産物の収穫量はかなり多い方です。
15世紀のヨーロッパではコムギやオオムギが栽培されていましたが、収穫量は蒔いた種の3~5倍程度に過ぎませんでした。
ところが、室町時代の日本では、イネの収穫量は蒔いた種の20~30倍もありました。
化学肥料が発達した現在の収穫量を比較しても、コムギは約20倍なのにイネは110~140倍。
この収穫量の多さが、国土が狭い割りには多くの人口を養うことができた理由です。
江戸時代中期の江戸の人口は百万人を超えており、当時の世界一の大都市でした。
現在の世界における日本の人口シェアは1.5%ですが、徳川綱吉や赤穂浪士が活躍した元禄時代には5%で世界のトップだったのです。
世界中の人間の、実に20人に1人が日本人だった計算になります。
ちなみに、卑弥呼の時代は330人に1人でしたから、稲作の普及がいかに日本を豊かにしたかがわかりますよね。
しかし、堺屋太一が「峠の時代」と表現したように、元禄時代をピークに日本の人口シェアは減少へと転じます。
それでも、元禄時代から100年後の文化元年(1804年)になっても、一膳飯屋を含めた江戸市中の飲食店数は6,165軒もあったそうです。
これは人口千人当たりで見ると、現在の東京23区よりも多い数字です。
稲作でこんなに人口が増えるのなら、ヨーロッパでもイネを作ればいいのにと思いますよね。
でも、イネは大量の水を必要とするため、ヨーロッパでは生産が難しいのです。
日本の年平均降水量1千7百ミリというのは、世界平均の2倍以上。
モンスーンアジア気候帯という特殊な環境が、日本に高温多湿の気候をもたらしてくれています。
でも、高温多湿で土壌も栄養豊富ということは、雑草にとっても実に好都合な環境です。
哲学者の和辻哲郎は、「ヨーロッパには雑草はない」と言いました。
日本の耕作放棄地はすぐに雑草が伸び放題となりますが、ヨーロッパでは雑草などほとんど生えないそうです。
ところが、江戸時代後期に日本を訪れた植物学者のフュンベリーは、「耕地には一本の雑草すら見つけることができなかった」と、和辻とは正反対のことを言っています。
これは、日本ではそれくらい頻繁に草取りが行われていたことを意味します。
稲垣は、この「丁寧さ=きめ細かさ」こそが、日本を工業立国に導く基礎になったのではないかと考えます。
その話に入る前に、日本の農業は工業に比べると貧弱だと言われますが、本当にそうでしょうか?
検証してみましょう。
確かにアメリカやオーストラリア、フランスでは見渡す限りの広大な農地が広がっています。
2010年のデータですが、平均耕地面積(単位:ヘクタール)で比較すると、日本は約2ヘクタールですが、フランスは53、ドイツ56、イギリス79、アメリカ170、オーストラリアに至っては2千9百。
随分と差をつけられていますよね。
ところが、1アール当たりどれくらいの食糧が収穫できるか、という「生産性」に注目すると意外な結果になります。
カロリーベースで日本は10万(単位:キロカロリー)なのに、アメリカは2万8千、オーストラリアは1万1千。
驚くべきことに、日本の農業は世界一生産性が高いのです。
アメリカやオーストラリアが広大な農地で栽培しているのは、主に牧草やトウモロコシなどの家畜の餌。
あとは、ナタネなどの油の原料です。
日本のように、狭い耕作地で丁寧に雑草を取りながら、手間暇かけて米や野菜を育てているわけではないのです。
稲垣は、この手間暇を惜しまない労働習慣こそが、日本人の勤勉性を作ったのではないかと考えます。
工業立国としての日本の成功を考える時、「丁寧さ=きめ細かさ」の他に、チームとしての「協調性」も挙げられます。
この「協調性」を育んだのもまた、農業だった可能性があります。
日本では、5~7人の小集団での農作業が盛んでした。
稲垣によると、中国や韓国では集団的な田植え作業が行われることはないそうです。
「タテ社会」という言葉の産みの親であり、日本の特質は小集団組織にあると喝破した文化人類学者の中根千枝も、タイやインドネシアなどの東南アジア諸国は日本よりずっと個人に主体性が置かれていると指摘します。
日本では「個人」という考え方が成立せず、「私」という概念も仲間との協同作業の中で初めて認識されたという話をしましたが、日本は頻繁に災害が発生するため、復旧作業など小集団で協力して作業をする場面は農作業以外でも結構あったのではないかと推測されます。
そして、それはおそらく「協力」というより、むしろ「結束」に近い強固なものだったはず。
草取りに見る、手間暇を惜しまない丁寧できめ細かな働き方と、農作業や災害復旧活動における日本特有の小集団での協業体制が、工業立国日本の礎になったという稲垣の説は結構説得力があると思いませんか。
ところで、多くのマスメディアが、近年の日本の食料自給率が低いことを問題視していますが、本当にそんなに低いのでしょうか?
これも、ついでに検証してみましょう。
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