株式会社ファイブスターズ アカデミー

金次郎は成田山新勝寺に籠り、２１日間に及ぶ農民救済を祈願する断食をしていました。
３カ月もの間、金次郎の行方がわからないことで桜町領の人々は慌て始めます。
名主たちが江戸に探しに出かけたり、金次郎の復帰を領主に願い出たりしました。
金次郎がいかに重要な人物だったか、居なくなって初めて気がついたのです。

やがて、成田山で断食祈願をしているという知らせが舞い込みます。
村人のために、ここまでしてくれる人が過去にいたでしょうか。

村人たちは目が覚める思いでした。
断食を終えた金次郎は、迎えに来ていた新任の藩の役人から、村人たちが金次郎の帰りを待ち焦がれていると聞かされます。
すると、フラフラの状態にも関わらず、桜町領に向かって歩き始めるのでした。

村では、１２５人の村人たちが金次郎を出迎えました。
ついに、金次郎の信念が彼らの心を動かしたのです。

これが転機となり、桜町領は約束の１０年間で復興を果たすことができました。
金次郎はその後も５年に渡り村に留まり、更に村を豊かにすることに貢献します。
ひとつの村を復興するのに１５年の歳月を費やしたわけですが、その後の１０年間では、なんと６００もの村の復興に成功しています。

なぜ、こんなにもトントン拍子にうまくいったのでしょう。
それは、金次郎が断食祈願によって自分の「うつ心」に気づいたからです。

うつ心とは、「加害者は誰か」という考え方です。
それまでの金次郎は、復興がうまくいかないのは村人たちが悪いからだと決めつけていました。
ところが、断食中に気づきます。

自分が相手を責めているから、それが自分に跳ね返ってきているということに。
自分の中の正義や理想に拘りすぎると、新たな敵を作り出してしまうことがあります。
その頃の金次郎はこんな歌を詠んでいます。

「うつ心　あればうたるる　世の中よ　うたぬ心に　うたるるはなし」

水車は川の流れに従うことで始めて回ることができます。
相手を「うつ」のではなく、相手に「従う」こと。

相手を直そうとするのではなく、相手の現実に飛び込んで相手の全てを知ることが大事なのです。

相手を直そうと考えると、どうしても相手の悪い面が見えてきます。
そうではなく、相手のありのままを観察するのです。
改革はそこから始まります。

金次郎の特筆すべき能力のひとつに「観察力」が挙げられます。
金次郎は詳細な日記をつけていましたが、そこに記載されていたのは事実だけでした。
あえて、一切の感情を排除していたのです。

例えば村人に嘘をつかれた時、感情に囚われてしまうとどうしても恨み、つらみが頭をもたげてきます。
「うつ心」が出てしまいます。

そうではなく、どんな時に、どんな理由で、どんな表情で、どんな嘘をついたかという事実だけを淡々と記録していくのです。
これこそが相手を知るコツです。

自分の感情に左右されてはいけません。
感情を抜きにして、事実だけを記録するのです。
もしあなたが管理職なら、大いに参考にしてくださいね。

ところで、金次郎の生い立ちは一体どんなものだったのでしょう。
本名・二宮尊徳、通称・二宮金次郎は農家の長男として１７８７年(天明７年)に生まれますが、１４歳で父親を、そして１６歳で母親を亡くしてしまいます。
二宮家は比較的裕福な農家でしたが、学問好きの父親が人助けに目覚めてしまい、自分の田畑を売り払って他人の借金の返済に充てたことが仇になります。

お人好しの父親の元に、次から次へと村人たちが金の無心に訪れました。
両親が亡くなった時、二宮家は無一文の状態だったといいます。
金次郎は、父親の兄の万兵衛叔父に引き取られました。
これからの生き方を教えてくれる人は誰もいません。
頼ることができたのは、父親が遺してくれた書物だけ。

勉強が好きだったわけではありません。
偉くなろうと思ったわけでもありません。
この先どうやって生きていったらいいのか、その答えを金次郎はただひたすら書物に求めたのです。

ところが、叔父の万兵衛は学問を極端に嫌っていたため、一切の勉強を禁じます。

そうなると、万兵衛の目が届かないところで本を読むしかありません。
例えば、薪を取りに行く道すがら。
それを見た周囲の者は金次郎を「変わり者」と噂しました。

そうです。
あの銅像は、寸暇を惜しんで勉学に励む姿などではなく、叔父の目を盗んで勉強するしかなかった「変わり者」の姿なのです。

その銅像について、金次郎の７代目の孫にあたる中桐万里子は、祖母から教えられたことがあると言います。