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5☆s 講師ブログ

人望力(2)

インパール作戦が机上の空論であることは、最初から誰の目にも明らかでした。
大本営の作戦参謀・竹田宮中佐は「無茶苦茶な積極案」とこき下ろし、南方総軍参謀副長・稲田正純少将は「まことに虫のいい、捕らぬタヌキの皮算用」と酷評しました。

ビルマ方面軍の片倉衷(ただし)大佐は作戦の修正を勧告しますが、牟田口が勧告に従わなかったため「命令違反で処断すべき」と上官に進言するほどでした。
さらには、牟田口が指揮する第15軍の参謀長・小畑信良少将までもが反対を唱えます。
ところが、逆に牟田口によって転属させられる始末。

全員が反対に回った「狂気」のインパール作戦が実行された背景には、牟田口が東條英機と懇意だったことも関係していました。
要するに、トップに気に入られてさえいれば、どんな無理でも通ってしまうということです。
そういう意味では、軍隊と会社はとてもよく似ていますよね。

当然、作戦を実行する3つの師団の師団長も全員反対しますが、そうはいっても所詮は軍隊。
命令に背けば、「抗命罪」での軍事裁判が待っています。
31師団、通称「烈師団」を率いる佐藤幸徳師団長は、1日10トンの補給を約束させた上で決死の行軍を開始します。

でも、補給する部隊も同じだけの距離を移動しなければなりません。
補給部隊の多くは老兵でしたが、険しい山岳や密林地帯を40キロの荷物を背負って移動しなければなりません。
40キロは牛乳パック40本分の重さと同じですから、ハナから無理な話でした。

一方、烈師団の方は数々の困難を乗り越えてインパールの北に辿り着き、コヒマの攻略に成功します。
ところが、食料と武器はすでに焼き払われた後でした。
しかも、30年に1度といわれる猛烈な雨に襲われ、兵士たちは塹壕の中で腰まで水に浸かったまま身動きがとれません。
不衛生な状態の中で赤痢やマラリアが横行しますが、待てど暮らせど補給が来る気配はありません。

佐藤師団長はやむ無く一旦コヒマを撤退し、補給の受けられる地点まで移動する旨牟田口に打電しました。

ところが、牟田口はあろうことか軍参謀長名で「あと10日間コヒマにいて今の状況を維持してほしい」と返電します。
その文面の最後は「以上依命」という言葉で結ばれていました。
「これは命令だぞ」という意味の脅し文句です。

牟田口がこの電報を打電したのは、最前線から400キロも離れた風光明媚な避暑地メイミョウ。
別名「ビルマの軽井沢」と言われる場所です。

帝国陸軍の致命的な問題はこれです。
指揮を執る者が現場にいないのです。
遠く離れた「安全地帯」にいて、状況がわからないまま現実離れした命令を下しているのです。
でも、こんなケースは現代でも結構ありますよね。

兵士の健康状態はますます劣悪なものになり、師団長は7日後に撤退を決意し電報を打ちます。
無念の思いから、電文の最後はこう綴られていました。
「コレヲ見テナカサルモノハ人ニアラズ」
この戦場を見て哭かない者は人ではない。

過酷な状況は他の師団も同じこと。
結果的に3つの師団全てが、命令に背いて戦線を離脱しました。
これに無田口は激怒します。
「兵器がない、やれ弾丸がない、食う物がないなどは戦いを放棄する理由にはならぬ」
こんなことを言えるのは、自分が安全地帯にいるからこそ。

牟田口が急遽派遣した参謀長の久野村桃代(とうだい)は、烈師団が撤退したウクルルで佐藤と面会すると、命令違反の件を難詰し始めます。
佐藤も黙っていません。
逆に、部隊の状況も把握せずにいい加減な命令を乱発したことに反発します。
これは、本来なら「抗命罪」に問われる行為。

ところが、そうはなりませんでした。
抗命罪に問うと、作戦遂行中に師団長を軍事裁判にかけなければなりません。
そのこと自体が前代未聞の不祥事ですが、裁判で実態が明らかにされて困るのは牟田口の方。
そのため、佐藤師団長は「精神に異常を来した」ことにされ、予備役に降格させられてしまいます。
無能な上司ほど、責任逃れの能力には長けているものです。

ナポレオン・ボナパルトは、「なぜフランス軍はあんなに強いのか?」と問われた時、「士官たちが革命で亡命したため、下士官が将軍や元帥になったからだ」と答えました。
現場をよく知っている人間が指揮を執っているから強いというのです。

瀧澤はナポレオンの言葉を引用して、指揮官が持つべき資質は「兵卒と共鳴」し、「兵卒を心服」させることだと結論づけます。
厳しい局面を迎えた時、中間管理職は二者択一を迫られます。

自分の保身のために上司の言いなりになるのか、それとも部下を守るために自分の経歴に傷がつくことを恐れず上司に進言するのか。
分かりやすくいうと、自分のために上司の側につくのか、それとも部下のために部下の側につくのか。

あなたは、自分と部下のどちらに重きを置いていますか?
どちらに天秤が傾いていますか?

そして、この天秤の恐ろしいところは、どちらに傾いているかが部下には一目瞭然であることです。
どうやら「人望」を得られるかどうかは、この傾き具合によって決まるようです。

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