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5☆s 講師ブログ

失敗学(2)

失敗に関係した人間が抱えてしまうストレスは、想像を絶するものがあります。
畑村は、失敗が起きた時の人間の対応は2種類に分かれると言います。
それは、失敗に対して「敏感に反応する繊細な人」と、「悠長に構えられる鈍感な人」です。

どちらが適切かというと、後者の方だそうです。
なぜなら、前者は正論を振りかざして失敗した人を責め立ててしまうからです。
もしも、正論通りに行動していたら失敗は避けられたのでしょうか?
正論というのは、あくまでも事後に行う議論でしかありません。

「敏感さ」とか「繊細さ」というのは、失敗が起きる前の時点では絶対に必要なことですが、いざ事が起きてしまってから「責任問題」に敏感になったり、繊細になってもしようがありません。
「責任問題」ではなく「事後処理」の方に目を向けるべきです。

個人は弱い存在です。
だからこそ、失敗の原因を個人に帰して、当事者の「責任問題」を論じたりするのではなく、あくまで原因は組織にあるものと考えて究明に当たるべきです。
それでなくても、失敗に関係した当事者は大きなストレスを抱えています。

畑村は、失敗のストレスから回復するためには、7つの方法があると言います。

①逃げる
②他人のせいにする
③おいしいものを食べる
④お酒を飲む
⑤眠る
⑥気晴らしをする
⑦愚痴を言う

いかがですか?
もし、こんな対処法が会社の「失敗対策マニュアル」に書かれていたらびっくりしますよね。
でも、極めて現実的な対処法ではあります。

あくまでも、最優先で考えるべきは個人なのです。
畑村は『図解 使える失敗学』の中で、こんなエピソードを紹介しています。

自動車のシャフトを作っている工場で、ある従業員の単純ミスが原因で100本もの不良品が出てしまいました。
本社に正直に報告すれば、その従業員と上司が処分されることは火を見るより明らか。

その時、仲間のひとりがボソリと呟きます。
「本社には隠しておき、毎週1本ずつ不良品が出たことにして2年がかりで解消すればいいのでは?」

このアイデアはすぐに採用され、本社にミスが知られることもなく2年後には無事リカバリーされたそうです。
隠蔽は決していいことではありませんが、2年間はミスがひとつも許されないため、作業はいつも以上に正確なものとなりました。
その上グループの団結が一層強まり、みんなイキイキと働いたそうです。

畑村はこの話を「いいインチキ」として高く評価します。
なぜなら、失敗を隠すか隠さないかの判断は、失敗が露呈したときに社会や周りに与える影響の大きさを一つの基準として、ある意味「損得勘定」で行うべきだと考えるからです。
もし、正直に本社に報告していたら、ミスをした人はそれを苦にして自殺していたかもしれません。

優先すべきは人の命であり、正論ではありません。
畑村は、この「いいインチキ」こそ真の組織運営であると断言します。
最近は、どこの会社でもコンプライアンスの徹底が叫ばれていますが、その裏で「か弱き人間」の存在が忘れ去られてはいませんか。

あなたの会社のコンプライアンスは、血の通わない冷酷無比な規定になっていませんか。
失敗の原因を個人ではなく、組織に求める風土やシステムを作り上げることは、そこで働く一人ひとりを大切にするという組織の決意表明でもあるのです。

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