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5☆s 講師ブログ

結果自然成(2)

その患者の手記は、「手術を受けるその朝まで『もしも』のことは考えず過ごしてきました」という書き出しで始まり、「やはり死ぬ覚悟ができず死を想像できませんでした。思うのは子どもたちの未来。親の思い、主人の思い、子どもの思い、友の思い。たくさんの思いに支えられ私は生かされているんだ、とあらためて感じた今回の手術でした」と綴られていました。

きっと彼女も怖かったに違いないという南淵の考えは、ものの見事に裏切られたのです。
リスクの理解などすっ飛ばして、ただただ家族とともに生きる未来だけを考えていたというのですから。

「治すぞ!」という思いは医師も患者も同じです。
でも、背負っているものが決定的に違います。
患者の「生きるぞ!」という思いの大きさや純粋さに比べれば、難手術に成功した医師の手柄など実に小さな話です。

成功、勝利、評価。

そんなことに拘っている自分に気づた南渕は、恥ずかしくて恥ずかしくてたまりませんでした。
その時、ふと頭に思い浮かんだのが「結果自然成(けっかじねんじょう)」という禅の言葉。

やれるだけのことをやったら、あとはただ待てばいい。
季節が巡れば果実が実るように、結果は自然と成るものだ。
自分の利益を求めて行動するな。
思惑や計らいを捨て、ただ無心に自分の成すべきことをやりなさい。

医師が目指すべきことは自分の成功や名声ではなく、患者の生きる希望を明日に繋げることではないか。
南淵は、改めてその事を思い知らされた気がしました。

今は心臓外科の世界で南淵を知らない人はいませんが、彼は有名医科大学出身のエリート医師というわけではありません。
奈良に住んでいた小学校時代は、運動もできず勉強も大してできない目立たない子どもでした。
転機が訪れたのは4年生の冬。

12月のある日曜日のことでした。

夜中に叩き起こされると、急いでミカン箱に教科書を詰めこむように言われます。
表に出るとそこには1台のトラックが・・・。
家業が傾いた南渕の一家は夜逃げをしたのです。
それでも苦境に打ち克って自分を育ててくれた両親を誇りに思い、今でも強く感謝していると言います。

医師を目指したのは人の命を救いたいという高尚な動機などではなく、「自分の子供にだけは夜逃げをさせたくない」、「一生家族を食べさせられる職業に就きたい」という極めて現実的な理由からでした。

30歳で日本を飛び出し、海外で修行を積みました。
オーストラリアの病院で、黙々と難手術をこなす心臓外科医たちに出会った時に目指す方向が決まります。
彼らは自分の評価に関係なく、ただひたすら目の前の難手術に立ち向かっていました。
南渕が東大医学部出身の医師に対してしばしば批判的な発言をするのは、彼らがリスクを取ろうとしないからです。
もし失敗したら自分の輝かしい経歴に傷がつく、と思っているのでしょうか。

患者の命より医師としての評価を優先するというのも、一つの考え方ではあります。
誰も否定はできません。
ただ、南渕はその考え方に与しなかっただけです。

休むことなく動いてくれる私たちの心臓ですが、なぜ心筋が収縮活動を続けられるのか、そのメカニズムについては未だにはっきりとはわかっていないそうです。
しかし、例えメカニズムはわからなくても、今日も心臓は休むことなく黙々と動き続けています。
私たちも自分の評価のためでなく、自分の成すべき仕事をただ黙々とやり続ける。

そんな存在になりたいものです。

結果自然成。

人事の評価がどうしても気になってしまうサラリーマンにとって、この心境に達するのはなかなか難しいことかもしれませんが、無心になってやるべきことをやることこそが結果的に評価の対象になるのではないでしょうか。

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