株式会社ファイブスターズ アカデミー

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5☆s 講師ブログ

営業方針は「売るな」?(2)

飯田は、とにかくがむしゃらに売上を上げて、従業員の給料を増やすことが「いい会社」になる道だと信じて疑いませんでした。
ところが、ようやく光が見え始めたその時に、大半の従業員が会社を辞めてしまったのです。
理由は「社長と一緒に仕事したくない」というもの。

その時初めて飯田は、売上を上げることに縛られるあまり、従業員を叱りつけてばかりいる自分に気がつきました。
自分の仕事が忙しくなるにつれ、「俺がこんなに頑張っているのにお前たちは何をやっているんだ」、「もっとやるべきことがあるだろう」という思いが強くなっていました。

でも、従業員は会社のために働いているわけではありません。
自分の幸せのために働いているのです。
どんなに給料が上がったところで、幸せを感じられない職場で長く働こうと思う人はいません。

飯田は、自分たちの商売の本質は何だろうと改めて考えてみました。
モノを売るだけの「物販業」か?
いや、そうではない。
料理道具を通じてお客様を喜ばせる「喜ばせ業」ではないのか。

そうだ!
「この料理道具に出会えてよかった」とお客様に満足してもらうことこそ、飯田屋の存在理由だ。
その喜びを従業員にも感じてもらいたい。
そして、その喜びこそが幸せに繋がるのではないか。

でも具体的にどうしたらいいのでしょう?
飯田屋には、お客様のご要望の声を集めた「ヒントノート」というものがありました。
そのノートに基づいて商品を仕入れると、面白いように売れていきます。
この醍醐味を彼らにも味わってもらいたいと考えた飯田は、全従業員に仕入れの権限を与えることにしました。
これがいいと思った商品なら、社長の許可を取ることなく仕入れてもかまわないのです。
要するに、全員がバイヤーというわけです。

でも、なかなか最初の一歩を踏み出す人が現れません。
そこで、この金額までは自由に使ってよいという、年間の仕入れ枠を設定することにしました。
アルバイト300万、正社員500万。
役職者は2,000万です。
この範囲内であれば、商品の仕入れだけでなく、オリジナルTシャツの販売や出張販売の開催も自由です。

当然、仕入れた商品が売れないケースも出てきます。
でも、そうなると従業員の方も商品のよさを伝えようと陳列を変えたり、POPを作ったりと様々な工夫を凝らすようになりました。

飯田が求めたのは成功ではありません。
失敗です。
失敗から学ぶことです。

失敗を恐れて挑戦しない従業員ばかりになってしまうことを、何よりも恐れたのです。
普通の経営者なら「売れる販売員」を雇いたいと思うものですが、飯田は「プロの販売員」は必要ないと断言します。

過去には、飯田屋にも販売経験豊富な販売員が入社してきたことがありました。
売上はすごく伸びたのですが、一方では本当にこれでいいのかという疑問も沸いてきます。
というのは、販売員の勧める商品を購入したお客様が、どうしても満足しているように見えなかったからです。
何だか従業員の押しの強さに圧倒されて、買わされてしまっているように見えました。

飯田屋のポリシーは、千枚のフライパンを売ることではありません。
たった1枚のフライパンでも、買ったお客様が心から納得し喜んで帰ってもらうことです。

売上数字を目標にすると、お客様が数字に見えてきます。
お客様を数字で判断するようになります。

だから、飯田屋の従業員には、「プロの販売員」ではなく「プロの消費者」の方が向いていると考えるのです。
プロの消費者とは、消費者のひとりとしてお客様と同じ目線で商品を見ることのできる従業員のことです。

飯田屋には接客マニュアルはありません。
マニュアルを作れば、平均的なサービスは可能となりますが、お客様を感動させる接客はできません。
お客様が感動するのは、「えっ!そこまでやってくれるの?」という場面に出くわした時です。
だから、従業員ひとりひとりが、どうやったらお客様を感動させられるのかを自分の頭で考えるのです。

ある従業員は、試行錯誤の末にひとつのキラーフレーズにたどり着きました。
「この世にあるか、調べてみます」
カタログを探しても見つからない時は、制作してくれるメーカーを探し出し、自ら設計図を作って提案したこともあります。

これが、飯田が「挑戦する従業員」づくりを目指した結果です。
2回目に来店したお客様のほとんどは、従業員を指名してくるといいます。
中には、お目当ての従業員が不在と聞いて帰ってしまうお客様も。

飯田屋の強みは人です。
従業員です。
ここに、実店舗ビジネスが生き残るヒントがあるのではないでしょうか。

そんな飯田屋の営業方針は、営利優先の「売らんかな」ではなく、「うらずかな」だそうです。
「うらずかな」には3つの意味があります。

①売らずかな
②裏付かな
③裏ずかな

①の「売らずかな」は、文字通り何でも簡単に売るのではなく、本当に求めているのものかどうかを見極めて、もしお客様が満足できない商品なら売らない勇気を持つことです。

②の「裏付かな」とは、裏付けのある商品しか売らないということ。
価値は比較からしか生まれません。
たくさんの商品を使い比べてみて、初めて何がどういいのか説明できるはずです。
その商品を使ったことのない販売員の説明を、あなたは信用できますか?
ちなみに「おろし金」に関していうと、試した数は全部で260種類に及ぶそうです。

③の「裏ずかな」は、裏表ない商売をすること。
数字でお客様を見るようになってしまうと、お客様が本当に喜ぶものが売れなくなります。
販売員が持つべき誇りとは、千枚のフライパンを売った実績ではなく、1枚のフライパンをどれだけ心を込めて販売したかです。

最近の商店街は廃れる一方。

実店舗は、アマゾンに押されてどんどん経営が苦しくなっています。
このまま押し切られてしまうのでしょうか。

アマゾンの企業理念は「地球上で最もお客様を大切にする」ことです。
でも、たった33坪しかない飯田屋には、アマゾンを超えられる強みがあると飯田は言います。
それは「地球上で最も『目の前にいる』お客様を大切にする」こと。
これは、アマゾンには絶対にできないことです。

ある時飯田は、アマゾン売れ筋ランキングの1位から100位までのビールグラスをすべて買い集め、どれが一番美味しくビールが飲めるのか独自に評価してみました。
するとランキング1位のグラスが、ダントツの最下位になってしまったのです。
しかし、評価には個人差があります。
そこで、従業員にもブラインドテストをしてもらったのですが、売れ筋1位のグラスを美味しいと評価した人はひとりもいませんでした。

なぜ、こんなことになったのでしょう。
カスタマーレビューは、あくまでその一品を気に入ったかどうかという絶対的な評価でしかありません。
つまり、たくさんのグラスを試した上での相対的評価ではないのです。
アマゾンのランキングというのは、価格や扱いやすさなども含めた総合的な評価です。
でも、飯田は多く人の多くの情報より、たったひとりのお客様にピッタリ合う情報の方が価値があると考えます。

従業員が、専門家としてお客様ひとりひとりのニーズに合致した、「お勧めの一品」をお伝えすること。
それこそが、実店舗の生き残る道だと考えるのです。
飯田屋は拡大を求めません。
毎月のように、ショッピングモールへの出店の誘いを受けますが全て断ります。
一度でも規模の拡大を求めてしまうと、「心から売りたいと思う商品以外は売ってはならない」という大原則が守れなくなるからです。

目の前にいるお客様に、ただただ喜んでいただくためだけに商売をする。
それこそが、アマゾンには絶対にできない商売です。
でも、考えてみると、それはもともと多くの店で昔から普通に行われていた、普通の商売だったのではないでしょうか。

現代のビジネスが利益の最大化を目標にして、少しでも効率性を高めることに注力した結果、私たちは何か大切なものを見失ってしまっているのかもしれません。

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