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5☆s 講師ブログ

ヒトフェロモンは存在するのか?(1)

においのする物質は世の中に数10万種類もあると言われています。
しかし、香料を開発している会社でも、使用する「におい物質」はせいぜい1,000種類くらいだそうです。
なぜかというと、人間に認識できるにおいはそれくらいしかないからです。

ヒトの嗅覚受容体とその遺伝子構造は、リチャード・アクセルとリンダ・バックによって発見され、2004年のノーベル生理学・医学賞の対象になりました。
その後の研究により、ヒトやマウスの嗅覚遺伝子が次々に発見されましたが、その数はなんと全遺伝子の3~4%にも及ぶほど。
嗅覚が、いかに重要な役割を果たしているかがわかります。

ところが、確かに遺伝子は遺伝子なのですが、塩基の変異により機能を失ってしまった「偽遺伝子」(ぎいでんし)が多いのです。
ちゃんと機能している遺伝子はマウスでは1,063個もありますが、ヒトではたったの387個。
しかも偽遺伝子は、マウスでは328個しかないのに、ヒトには415個もありました。

これは、ヒトが進化していく過程で、多くの嗅覚遺伝子を必要ないものとして、退化させていったことを示しています。

マックスプランク研究所のジラッドらは、ヒト、チンパンジー、アカゲザルなどの「狭鼻猿類」において嗅覚の偽遺伝子の割合が高いのは、色覚の進化と関係があるのではないかと推測しています。
なぜなら、視覚に関係する赤型オプシン遺伝子が、遺伝子重複して2色色覚から3色色覚を獲得した時期が、ちょうど新世界ザルなどの「広鼻猿類」と分岐した後だったからです。

進化に伴い大脳が巨大化したといっても、キャパシティには限界があります。
そこで、嗅覚システムを退化させることで、その分視覚システムを進化させたのではないかと考えたのです。

急激に退化した遺伝子といえば、「苦味遺伝子」である「T2R」もそうです。
おそらく、集団で暮らしているうちに、食物に関する知識がどんどん集積していって、全く未知の食べ物を試す機会が減ったため、苦味を認識する機能というのがそれほど重要ではなくなったからだと考えられます。
仲間とのコミュニケーションが進み、集団の中に情報が蓄積されていくにつれ、感覚器の重要性が変わってくるというのは実に面白い話ですよね。

ところが、嗅覚研究の進捗に伴い、嗅覚の退化の過程はそれほど単純なものではなく、かなり複雑なプロセスを経ていることがわかってきました。
例えば、ヒトとチンパンジーを比較すると、嗅覚遺伝子と偽遺伝子の割合はほぼ一緒なのに、ヒトの機能遺伝子の25%は、チンパンジーに相同な遺伝子が存在していないのです。

逆にチンパンジーにはあるのに、ヒトにはない機能遺伝子の割合も同じくらいでした。
つまり、片方では認識できるのに、もう片方では認識できないにおいが、ともに一定数あるということです。

これは一体どういうことでしょう?
生存にとってそれほど重要でないにおいの遺伝子をオフにする、つまり偽遺伝子にするというのならわかりますが、遺伝子そのものまで消し去る必要はないはず。
本当に不思議です。

現在、比較ゲノム学を専門とする郷康広や、進化生物学の颯田葉子らがその解明に挑んでいますが、嗅覚もまた多くの謎を含んだ感覚です。
ところで、冒頭で世の中には数10万種類の「におい物質」があると言いましたが、「におい物質」とは、生き物がにおいとして感じ取ることができる、有機・無機の化合物の総称を言います。

一方、生き物が自ら合成して体外に分泌することで、自分と同種の他個体の生理状態や、行動の変化を引き起こす物質の方は「フェロモン」と呼ばれ、「におい物質」とは区別されています。
次回は、この「フェロモン」についてお話ししましょう。

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