株式会社ファイブスターズ アカデミー
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白いワイシャツに青いジーンズ。
統一された服装にお揃いのロゴマークをつけた250人の学生が、直立不動の姿勢で一斉に右手を斜め45度に挙げ、大声で「ハイル、タノ!(タノ万歳!)」と唱和します。
この掛け声は、もちろん「ハイル、ヒトラー!」を真似たもの。
これは、甲南大学文学部教授の田野大輔が行っていた、歴史社会学の授業のひとコマです。
田野の狙いは、学生たちにナチスの行動を実際に体験させることで、「独裁」について考えを深めてもらおうというもの。
独裁と聞くと、私たちはすぐに「言論弾圧」だとか「絶対服従」、あるいは「監視社会」といった言葉を思い浮かべてしまいます。
しかし、ヒトラーの独裁政治に関しては、近年の実証研究の進展に伴い、その評価が大きく変わりつつあるのだそうです。
そのキーワードは「合意独裁」。
つまり、ユダヤ人を除くほとんどのドイツ国民は、ヒトラーの独裁には基本的に同意していたというのです。
本当でしょうか?
ナチスは、理想とする社会のことを「民族共同体(フォルクスゲマインシャフト)」と呼びました。
共同体の具体的なイメージは、ナチス女性団体の機関誌の表紙のイラストに描かれています。
母親と子供、そして彼らが暮らす家を守っているのは3人の男たち。
すなわち「兵士・労働者・農民」です。
この3者が、ドイツという「民族共同体」を外敵から守る、防御の担い手というわけです。
この3者の組合せは、かつてのロシアでも見られました。
1917年3月、ロシアの首都ペトログラードで民衆が蜂起し帝政を倒してしまいます。
これに伴い、一時的にブルジョア政権による臨時政府が樹立されました。
ところが、一方ではロシア各地で「兵士・労働者・農民」から成る評議会が次々に結成されていきます。
この評議会の名称は「ソビエト」。
そして同年11月、亡命先のスイスから帰国したレーニン率いるボルシェヴィキが武装蜂起し、これを臨時政府が制圧できなかったことでついに「ロシア革命」が成就します。
農民や労働者などの貧しい人々が武装勢力と結び付いた時には、必ず大きな社会変革が起こるのです。
ヒトラーが政権の座についた時、ドイツは失業率45%という深刻な不況の真っ只中。
ところが、アウトバーンの建設など、ヒトラーが積極的な財政出動に舵を切ったことで景気は劇的に回復し、労働者の所得は大幅にアップします。
当時の経済状況を見ると、労働者たちの消費財購入やレジャー支出が急増していたことがわかります。
ヒトラーは、多くの貧しい人々の所得を大幅に増やし、彼らの暮らしを豊かにすることで国民全体を団結させたのです。
毎年ニュルンベルグで開催されていたナチ党大会の参加者には、汽車賃から宿泊費に至るまで十分な金銭的補助が行われただけでなく、会場周辺ではサッカー大会や映画上映、ビアガーデン、花火大会といった様々な催し物が用意され、まさにお祭り状態でした。
驚くべきことに、ナチスの独裁は娯楽に溢れていたのです。
国民は、豊かで楽しい暮らしを謳歌し、それをもたらしてくれたヒトラーを心から歓迎しました。
ヒトラー人気は凄まじく、写真集が多数出版されたほど。
公正な選挙ではなかったとは言え、何度か行われた国民投票で90%前後の票を得ていたことこそ、多くの国民がナチスの支配を受け入れていた何よりの証拠ではありませんか。
まさに、「合意独裁」です。
と同時にヒトラーは、国民の敵として富裕層に対する反発を煽ることも忘れませんでした。
当時、金融業などで「不当利得」を得ていた富裕層こそ、ユダヤ人に他なりません。
「正義の敵」を設定し、人々の「義憤」を煽りに煽ることで、国民の団結はより一層強固なものとなっていきます。
でも、田野は考えます。
独裁社会を成立させてしまうのは、私たちの側にも独裁を受け入れる、何らかの「素地」があるからではないのかと。
それを解明するために、彼は「ファシズムの体験学習」を始めたのです。
この授業の青写真となっているのは、2008年のドイツ映画『THE WAVE ウェイヴ』。
ドイツのとある高校で、ひとりの教師が始めた独裁制の体験授業が、次第に生徒たちを過激な行動に走らせていく様子を描いたものです。
原作はモートン・ルーの小説『ザ・ウェーブ』。
なんと、1960年代にアメリカ・カリフォルニア州の高校で実際に起こった事件をモデルにしているそうです。
映画では、当初「独裁とは何か?」という教師の問いかけに全く興味を示さなかった生徒たちが、体験型の授業を受ける中で次第に自らの意思で「独裁」にのめり込んでいく姿が描かれています。
白シャツを「制服」として全員が着用し、一斉に足を踏み鳴らしたり整列行進の訓練を繰り返すうちに、生徒たちはかつて経験したことのない「一体感」に魅了されていきます。
しかし、陶酔感はやがて行き過ぎた「万能感」をもたらします。
「力を合わせれば何でもできる」
この確信が、やがて集団の暴走へと発展します。
田野はこの体験授業を行うにあたり、学生たちが暴走しないよう様々な安全弁を張り巡らすのですが、それについては追ってお話しましょう。
さて、教室での「ハイル、タノ!」の敬礼と足の踏み鳴らし練習が終わると、いよいよクライマックスの屋外授業です。
白シャツにジーンズという「制服」に身を固めた一群は、ベンチでイチャついているカップルを取り囲むと、号令一下大声で「リア充爆発しろ!」と糾弾を繰り返します。
カップルはもちろん事前に用意したサクラですが、勢いに押されて退散したところで集団は拍手で目標達成を宣言し、学生たちは教室に戻って感想レポートを書く作業に移ります。
この時、彼らが最初に気づくことは、制服を着て統一した行動をとるのは、高校までの学校生活で日常的に行われていたという事実です。
わざわざこんな授業をやらなくても、土台はすでに出来上がっていたのです。
続いて、ファシズムに必要な要素とは何かということに考察を進めていくのですが、代表的な感想レポートをいくつか紹介しましょう。
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