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5☆s 講師ブログ

新聞は消滅してしまうのか(4)

満を持して発足したコンプライアンス委員会。
朝日新聞社員には『コンプライアンスの手引き』という45ページからなる小冊子が配られますが、そこにはありとあらゆる規則が列挙されていました。

まるで、箸の上げ下げまで指導するような細かな内容でしたが、最も顰蹙を買ったのは「公益通報制度に関する規定」の項目。
そこには、こう記されていました。
「いわゆる内部通報制度ですが、『密告のすすめ』ではありません」

なぜ顰蹙を買ったかというと、社員の誰もが「密告」という手段が権力闘争に使われてきた朝日の黒歴史を知っていたからです。

新たに設置された「内部監査室」は、社長直属という強力な権限を駆使して徹底的に社員を監視しました。
社員はこの組織を「ゲシュタポ機関」と呼んで恐れ慄きます。
ある時は、熱心に電話取材を行っていた記者が標的にされました。

朝日新聞では、会社から携帯が貸与されるようになるまでは、個人契約の携帯の通話料金を会社に請求することが可能でした。
ただし、請求する際は通話先を明記した明細書を添付しなければなりません。
監査室は、この記者の高額な通話料金に目をつけます。
そして、本当に取材を受けたのかどうか記者本人に断ることもなく、直接相手に電話を入れて裏を取り始めたのです。
これでは取材に協力する人などいなくなりますよね。

なぜ、監査室はこれほどまで熱心に摘発に取り組んだのでしょう。
理由はカンタン。
不正を発見すれば自分が出世できるからです。
もはやコンプラ自体が、権力闘争の武器と化していたのです。
監査室の誰もが、自分の成果を実際以上に大きく見せようと躍起になっていました。
その結果、実に奇妙なことが続発します。

コンプラ部門しか知りえない情報や、経営の中枢部だけしか把握していない極秘情報が、次から次へと世の中に漏洩し始めたのです。
原因はわかっていませんが、内部監査室の人間が社長以外の役員の領収書を徹底的に洗っては社長にご注進に及んだり、あるいは周囲の人間に自慢話として極秘情報を開陳したりする者がいたことは紛れもない事実です。

こんなこともありました。
社長の覚え目出度い内部監査室長が、子会社の朝日新聞出版に監査に入り、徹底的に調査した成果を手土産に、首尾よくこの会社の常勤監査役に収まります。
ここまではよくある話ですが、その先がちょっと違います。
その監査役が、社内用に作られた発売前の新刊本の見本を、大量にネットオークションに出品していたことが発覚したのです。
内部監査室のモラルのレヴェルがわかりますよね。

でも、そんな内部監査室にも勝てない相手がいました。
ある高名な記者が、「支局一個分」ほどの巨額の経費を使っている事実が判明します。
しかし、この記者が処分されることはありませんでした。
理由は、記者が政財界に太いコネクションを持っていたからです。

世間では、ジャーナリストというのは、このような接待癒着を糾弾する側の人だと思われていますが、新聞記者の場合は違います。
新聞記者には、絶対に糾弾できない事情があるのです。
その話は後でするとして、朝日新聞社のコンプライアンスの基準が、一般の会社とはかなり違うことは明らかです。

しかし、私が最も問題だと思うのは、東電の吉田調書に関する誤報問題により社長の進退が問われている真っ最中に、常務会の討議内容が朝日新聞に批判的なメディアに筒抜けになっていたことです。
ほとんどの社員は、週刊誌の記事で初めて上層部の動向を知ったといいます。
私は、記者の“正義感”から、このような情報漏洩が頻発するのではないかと思っていました。

しかし、『朝日新聞―日本型組織の崩壊―』の著者の分析は全く違います。
なんと、出世競争で劣勢に立たされた側が、ライバルを叩いて貰うために社外のメディアにリークしていたというのです。
2014年10月の大阪本社での社員集会で、市川速水GMはこんな事実を吐露しています。
「今回は私の身の回りでも、20、30の会議の中身が全部漏れている」
20~30ということは、普通の会社ならほぼ全ての会議です。

これほど情報の取り扱いがルーズな会社というのは、聞いたことがありません。
コンプライアンス以前に、もはや組織の体をなしていませんよね。
しかも何より問題なのは、この会社が情報が命のはずのメディア産業のひとつだということです。
これほど守秘義務意識のない人たちが、毎日取材活動をしているのかと思うと背筋が寒くなります。

『朝日新聞』という告発本の副題は『―日本型組織の崩壊―』ですが、ここまで深刻な病巣を抱えている組織というのは、日本でもかなり珍しいのではないでしょうか。
十把一絡げに「日本型組織」と括られてしまうのは、真面目にやっている私たちサラリーマンにとっては実に迷惑な話です。
こんな人たちが「ガバナンスが不十分だ」とか、「コンプライアンスを遵守していない」などと、偉そうな記事を書いていたのかと思うと腹が立ってきます。

しかし、インターネットの出現が全てを変えました。
新聞ビジネスは、購読料と企業広告に支えられて初めて成立するビジネスモデルです。
多くの人が購読するからこそ、企業は広告を出稿するのですが、この構図は完全に崩れ去りました。
しかも、長年社内の権力闘争に明け暮れたことで、記者の「調査報道」能力は失われ、スクープは週刊誌の独壇場になってしまいました。
もっとも、新聞やテレビは日本独特の制度である「記者クラブ」を通じての取材がメインであるため、政治家や官僚にとって都合の悪い記事を書いてしまうと、「記者クラブ」に出禁になってしまいます。
だから、記者クラブに所属していない週刊誌の記者にしか、スクープ記事は書けないのです。

因みに、この「記者クラブ」という制度があるのは、世界広しと言えども日本とジンバブエだけです。
かつてある週刊誌が、総理の息子で衛星放送会社の部長が官僚を接待していたことをスクープしましたが、これなどは新聞社には絶対に書けない記事です。

なぜなら、官僚接待に最も多額の金額を注ぎ込んでいるのは、他ならぬ新聞社だからです。
不思議なことに、新聞記者は官僚の「利害関係者」には含まれません。
だから、ゴルフと旅行以外であればどれだけ高額の飲食接待をしても、それは記事を書くためのものであり自社に利益を誘導するためのものではないので、公務員の倫理規定には抵触しないのです。
新聞社が「取材費」という名の「接待費」をどれくらい使っていたかは、かつて朝日新聞社が自社の取材費にメスを入れただけで、史上最高益を叩き出したことからも大体想像がつきますよね。

しかし、「記事を書くための接待ならば問題ない」という理屈は完璧ではありません。
なぜなら、新聞社には通称「波取り記者」と呼ばれる記者が大勢いるからです。
この人たちは一切記事を書きません。

では何をやっているかというと、官僚の接待のアポ取りです。
要するに、衛星放送会社の部長と同じ仕事をしているのです。
「波取り記者」が官僚を接待する目的は、系列のテレビ局の電波の周波数帯を確保するためです。
だから「波取り」と呼ばれるのです。

日本は、OECD加盟35カ国中で唯一「電波オークション」、所謂「電波の入札」を行っていない国です。
新聞は時々、競争入札によらない取引を「癒着」だと批判しますが、系列のテレビ局の電波は入札ではなく、このような接待によって確保されているのです。
「波取り記者」というのは、私にはどうしても「利害関係者」のように見えてしまうのですが、皆さんはどう思われますか?

でも、新聞は絶対にこのことを記事にできないし、系列のテレビ局がワイドショーで取り上げることもできません。
新聞やワイドショーにとって、事実を報道することはそこそこ重要なことですが、それよりもっと重要なことは絶対に「ブーメラン」を起こさないことです。

新聞業界は、取材活動という名目で政治家や官僚を接待することにより強固な人間関係を築き上げ、それを利用して国有地を格安で払い下げてもらったり、消費税の軽減税率適用など数々の既得権を手に入れてきました。

もちろん、そのことを同業の新聞社から追及されることはありませんし、日本は先進国で唯一、新聞社とテレビ局の系列化が黙認されている国ですから、ワイドショーで追及されることもありません。
私たちは、新聞やテレビなどの報道は全て事実だと思い込んでいますが、実際は自社にとって都合の悪い事実は報道されない仕組みなのです。

知れば知るほど、普通の会社の、普通の常識さえ身につけていないサラリーマンの集まりが新聞業界です。
この業界の未来は果てしなく暗いとしか言いようがありませんが、むしろ自ら襟を正せないのであれば、消滅した方が却って世の中のためになるのではないかとさえ思えてきます。

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