株式会社ファイブスターズ アカデミー
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本当に、東條英機ひとりが悪者だったのでしょうか。
赤松の証言によれば、東條が何度も口にした言葉があるといいます。
「海軍が『ノー』と一言いえばよかったのに、それを言わないから戦争になった」
保阪はこの言葉を赤松だけでなく、複数の陸軍の要人たちから何度も何度も聞かされたと言います。
なんとも虫のいい話ですが、それにしてもなぜ海軍は「ノー」と言わなかったのでしょう。
それは、そんなことが言える「空気」ではなかったからです。
強硬な開戦論者だった東條が、先頭に立って旗を振ることで醸成した開戦の「空気」。
その「空気」には海軍どころか、作った東條英機本人でさえも、もはや抗うことができなくなっていたのです。
赤松は、東條自身は本当のところ戦争をしたくなかったのに、首相になってから「自らの影」に脅えたのだと述懐します。
作った張本人が脅えるほど、「空気」というのは強大な力を持つようです。
ここに、忘れてはならない事実があります。
昭和天皇は、東條英機を首相に任命した際、戦争の白紙還元を命じています。
それでも、開戦を止めることはできなかったのです。
「空気」の前では天皇陛下でさえ無力だったのです。
私たちは、日本の運命を決めた決定権者が、「空気」だったという事実を決して忘れてはなりません。
過ちを繰り返さないためには、「空気」を作らせないことです。
思えば、現在話題になっている「オリンピックの開催可否」についても、「空気」が決定しようとしていますよね。
感染者数に関する他国との比較など、客観的な数字をワイドショーで見たことがありますか?
また、どのような感染対策が有効かといった論理的考察や検証も全く行われていません。
すべては街頭インタヴューによる無責任な発言と、知識のないコメンテーターたちの”個人的な感想”で番組が構成されています。
まさに今、オリンピックの行方は「空気」に委ねられているのです。
では、どうすれば「空気」の支配から逃れることがことができるのでしょう。
一体何がキーポイントなのでしょう。
戦前の日本が、「空気」の醸成を許してしまった原因は何だったのでしょう。
いつの時点の、どんな行動が「空気」の醸成を許してしまったのでしょう。
東條は人事を考えるのが大好きでした。
政務室の大きな机に各省の人事配置図を広げて、「この人物をこっちに・・」などと鉛筆で書き込むのを何よりも楽しみにしていたといいます。
私情絡みの人事は弊害しか生みません。
諫言の士より服従の部下。
結果、トップの言うことに一切口を挟まない幕僚たちが陸軍の中枢に座ることになったのです。
保阪の結論はこうです。
「昭和10年代の陸軍の最大の誤りは、人事異動、特に東條人事にあった」
軍隊が間違った方向に暴走したきっかけは「人事」でした。
考えてみると、日本の歴史上もっともリーダーシップを発揮した人物は東條英機です。
なにせ、開戦という間違った大事業をひとりで成し遂げてしまったのですから。
なぜ、東條ごときにそんなことができたかというと、人事権を手に入れたからです。
「人事」を動かして、「空気」を作ってしまったからです。
これは現代の会社組織にとっても、教訓とすべき重要なことです。
人事が会社の行く末を決めてしまうのです。
今、「東條ごとき」と言いましたが、それを物語る半藤一利の回想があります。
半藤は、終戦直後の日本をこう表現しています。
「誰もが日本人の無知や卑劣、無責任さといった悪徳をぶちまけた。誰もが惨めなくらいに自己卑下し、さらに自分以外の誰かを罵倒し続けた」
「自分以外の誰かを罵倒し続けた」という部分は、コロナ禍の現代と通じるところがありますよね。
でもその半藤が、日本人であることの屈辱、嫌悪、情けなさを最も強く感じたのは、9月11日に起きた出来事でした。
GHQの憲兵が東條英機を逮捕しようと邸宅に赴いた際、東條はピストル自殺を図ります。
しかし、なんと未遂に終わってしまうのです。
戦陣訓で「生きて虜囚の辱しめを受けず」と範を垂れていたのに、自決に失敗したのです。
多くの人命を失うことには全く躊躇しなかった男は、自分の命だけは惜しくて惜しくてしようがない男だったのです。
「生きて虜囚の辱しめを受けず」
この教えを忠実に守って、特攻攻撃したり敵に降伏せずに自決した兵士たちや、沖縄の人々のことを思うと本当にいたたまれない気持ちになります。
政治家の言葉が国民に伝わるとか、伝わらないとかいう議論がありましたが、この戦陣訓ほど国民に浸透した言葉は他にありません。
私たちは、歴史からもっと多くのことを学ぶべきです。
その時偶然現場に居合わせた新聞記者のメモによれば、東條が発した言葉は「一発で死にたかった。切腹は考えたが、ともすれば間違いがある」。
間違いのないはずのピストル自殺を試みて、間違った東條。
なぜ、この程度の人間がリーダーになれたのでしょう。
その答えは、「人事」です。
全てのことは「人事」から始まるのです。
だからこそ私たちは、「人事」に関して、もっともっと慎重になる必要があるのです。
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