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5☆s 講師ブログ

脱税の世界史(4)

20世紀になると、「徴税請負人」に代わる夢のような制度を考えた天才が現れます。
その制度とは「源泉徴収」。
これなら、税金を取りっぱぐれることはありません。

しかも、権力者にとって都合がよかったのは、納税者に税金を負担している実感がほとんどないことです。
現在でも、自分の払っている税金が一体いくらなのか、正確に答えられるサラリーマンがどれくらいいるでしょうか?
しかもこの天才は、「扶養控除」という制度を導入して大衆の税金を安くしました。
さらには、 企業や富裕層の税金を増やすことで、大衆から熱狂的な支持を集めることにも成功します。

もう、お分かりですよね。
その権力者の名前こそ、アドルフ・ヒトラーです。

当時ドイツの同盟国だった日本も、昭和16年に源泉徴収制度を取り入れることになりますが、信じられないことにそれまで日本のサラリーマンの給料は非課税だったそうです。
会社の儲けには法人税が課せられているので、サラリーマンの給料にも課税すると二重課税になってしまうからという理屈でした。

ところが、戦争が激しくなり戦費が不足し始めると、二重課税だとか言っている余裕はなくなります。
この時、戦費調達のための特別税を徴収するという名目で始まった源泉徴収制度は、権力者と税務当局にとってはまさに麻薬のような制度でした。
だから、戦後になっても二重課税については一切議論されることなく、こっそりと継続されて今日に至るのです。

中には「二重課税は問題ではない」と主張する人もいるでしょう。
でも、現在投資ファンドなどが盛んに利用している「投資組合」は、組織と個人の二重課税を避けるという理由から、組合の利益には税金がかからないようになっています。

もし、二重課税が問題でないなら、法人に「法人税」が課せられるように、投資組合には「組合税」が課せられてしかるべきではないでしょうか。
いつの世も税制が金持ちに有利な方向に働いている、と感じるのは私だけでしょうか。

さて、そんなヒトラーが脱税していた話はほとんど知られていません。
1923年に著した『我が闘争』がバカ売れし、現在の日本円に換算して25億円という大金を手にします。
それまではクーデターを起こした罪で刑務所暮らしをするなど、まさに食うや食わずの生活を強いられていたヒトラーは、にわか成金の例外に漏れずお金を遣いまくりました。

後から巨額の税金の請求が届き真っ青になりますが、それでも何とか1/3は払ったようです。
ヒトラーは、自分が税金に苦しめられた経験から、税負担を軽減すれば大衆が喜ぶという法則を学んだのかもしれません。

ちなみに、残りの2/3はチャラにされました。
1933年にヒトラーが政権を取ると、権力者に忖度したミュンヘン税務署長が滞納額の帳消しを提案してきたのです。
この提案によって署長は本庁のトップに昇格し、給料は4割増しとなったそうです。
いつの時代にも、機を見るに敏な“小判鮫”がいるものです。

それにしても、「税金」という視点から歴史を眺めてみると、随分と違った景色が見えるものですね。
世界史の教科書を編纂する時に「税金」という縦糸が一本織り込まれていたら、私ももう少し授業に身が入っていたかもしれません。

イギリスのサッチャー元首相は、1992年ホテルオークラでの講演会で名言を残しました。
「歴史とは学ぶべきものであって、覚えるものではありません」

現代も世界中で貧富の差が拡大していますが、貧しい人々の税負担が重くなると国力は弱まり、やがて必ず大きな社会変革が訪れます。
私には、これが「いつか来た道」のように思えてなりません。

 

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