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5☆s 講師ブログ

クレームで営業する?

ハウスメーカーの営業は大変です。
なにせ、一生で一番高価な買い物となる住宅を販売するのですから。
マンションならば将来買い替えという選択肢もありますが、戸建て住宅の場合は「終の住処」という側面があるため、購入する側も慎重にならざるを得ません。

菊原智明は中堅ハウスメーカーの営業マンでしたが、入社以来7年間ずっと成績が低迷し、本人曰く「クビ寸前」の状態でした。
菊原の営業手法は、典型的な“根性営業”。
夜遅くまでアポなしでお客様を訪問し、事務所に戻って深夜まで様々な間取りの提案書を作ります。

今でこそブラック企業などと言われますが、昔はどんな業種も似たり寄ったりの営業手法でした。

“根性営業”でノルマを達成する方法は、たった2つしかありません。
1つは面談数を増やすこと。
もう1つは成約率を上げることです。

しかし、面談数を増やすことは、不在世帯の増加に伴い次第に難しくなっていきます。
残された手段は成約率のアップですが、そこでは営業マンの「熱意」を見せることが大事だと言われていました。
だから、いざ商談となるとどうしても商品の良さをアピールすることに熱が入ってしまいます。

この時、営業マンが心の中で願うことはただひとつ。
一刻も早く、お客様の気持ちが「買う」方向に傾くことです。

ところが、お客様の方の心理状態はというと、営業マンとは全く違います。
商談の最中お客様が最も警戒しているのは、営業マンの口車に乗せられることです。
そのため、「売らんかな」の姿勢を前面に出してくる営業マンに対してはどうしても抵抗を感じてしまいます。
つまりお客様は、“根性営業”タイプを敬遠するのです。

でも、売る側はそんなことに構っていられません。
なぜなら、ノルマを達成しなければならないからです。

ところが、ある日のこと、菊原は奇妙な体験をします。
モデルハウスを訪れた見学客に対して、やれ鉄骨造りは頑丈だとか、鉄サビが出ない特殊な塗装方法をしているだとか、いつものマニアックなセールストークを熱く展開しているときでした。
それまで関心なさそうに聞き流していたお客様が、突然「窓が大きくて開放的なのがいいね」と、菊原の説明とは全く関係のないことを言い出しました。

この瞬間、菊原の頭を過ぎったのは、かつて経験したクレームの記憶でした。
リビングの窓を大きく取ると、どうしてもエアコンの室外機の設置場所が限られてしまいます。
そのお客様の場合、室外機が駐車スペースにはみ出てしまったため車が入れられなくなり、お怒りの電話がかかってきたのでした。
結果、外壁を交換して内装をやり直すという、とんでもない大工事になってしまいました。

一刻も早くお客様の気持ちが「買う」方向に傾くことを願っている営業マンが、このようなマイナス情報を伝えることは通常はほとんどありません。
でも、この手のクレームで2度と嫌な思いをしたくない菊原は、正直に過去のいきさつを話しました。

するとどうでしょう。
さっきまでとりつく島のなかったお客様の態度が急変し、その話を詳しく聞かせてほしいと食いついてきたではありませんか。

家を建ててしまってから気づく不具合というのは、意外と多いもの。

もしかしたら、お客様はこのようなクレームのことを聞きたがっているのではないだろうか。
菊原は、思い切って訪問営業のスタイルを変えることにしました。
いきなり訪問するのではなく、まずお客様に「お役立ち情報」シリーズという情報ビラを郵送するのです。

内容は、家を建てた後に気づいた様々な不具合の事例集です。
例えば、コンセントの位置。
人は家を建てるとき、部屋の間取りだとかドアや窓の位置は慎重に検討しますが、コンセントの位置は案外考えないもの。
でも、タンスのような大きな家具を置いてしまうと、コンセントが塞がれてしまうことって結構ありますよね。

ネタ集めには苦労しませんでした。
なぜなら、営業の現場はクレームの宝庫だからです。
クレーム事例の情報を何回かお届けした後で、脈がありそうなお客様だけを訪問するスタイルに変えたのですが、情報を届けたとたんに「すぐに来てくれ」とお呼びがかかることもしばしば。

ノルマ達成のためにマイナス情報をひた隠しにするのをやめて、逆に正直に開示したことによって「誠意ある営業マン」という認識が広がったのです。
当然、成約率も飛躍的にアップします。
7年間も底辺をさ迷っていた営業成績は急上昇。
一転して4年連続で全国トップの記録を打ち立てた後、営業コンサルタントとして独立しました。

営業マンは商談の際、「売る側」からの視点で商品の良さをアピールしますが、これだとどうしても「買う側」の視点が抜け落ちてしまいます。
菊原は、今まで受けた様々なクレームを紹介することで、「買う側」の視点に立った営業アプローチを展開しました。
言い換えると、お客様が将来「困るであろう」ことを、事前にお知らせするという逆転の発想をしたわけです。
そしてそのことが、お客様の絶対的な信頼を得ることに繋がったのです。

“根性営業”でノルマを達成できたのは高度成長期の話。

令和の時代でもノルマを達成したかったら、視点を「売る側」から「買う側」に転換する必要があります。
そもそも、“根性営業”が通用していた時代の方が異常だったのですから。

ハウスメーカーも株式会社ですから、利益を上げて存続しなければいけません。
でも、ハウスメーカーは、「存続する」ために「存在している」のではありません。

ハウスメーカーが存在する意味は何でしょう。
それは利益を上げることではなく、お客様に「満足した」と言ってもらえる住宅を提供することです。

利益は、その結果として後からついてくるものです。
私たちの仕事は、本当にお客様に満足してもらっているのか、今一度自分の足元を見つめ直してみませんか。

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