株式会社ファイブスターズ アカデミー
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輝子が恐る恐る読んだ父親の日記には、意外なことが書かれていました。
順風満帆に見えたサラリーマン人生でしたが、本人はかなり早い時期から銀行マンという職業は性に合わないと感じていたというのです。
彼の唯一の趣味は写真を撮ることでしたが、日記には何度も賞を取ったことや、アメリカのカメラ雑誌に作品が掲載されたことなどが書かれていました。
大手のフィルムメーカーから2回も入社の誘いを受けますが、断ってしまいます。
2回目は「重役の椅子を用意する」とまで言われたのに・・・。
断りを入れた日のそれぞれのページには、全く同じ言葉が記されていました。
「我、妻子さえいなければ・・・」
サラリーマンを続けるより他に選択肢のなかった源雄の悔しさが、この一言に滲み出ているようです。
源雄は20代の初めという年齢で否応なく職業の選択を迫られ、その職業が性に合わないと気づいた時には妻子を養う義務に手足を縛られ、転職の自由も奪われたまま定年まで勤め続けたのでした。
彼にできる事はただひとつ。
「会社員」というレールの上をひたすら全力で駆け抜けて、とにかく行けるところまで行くことでした。
「誰が食わせてやってきたと思ってるんだ!」という暴言も、もしかしたら写真の世界を断念せざるを得なかった、自分自身の運命に対する怒りだったのかもしれません。
妻子を養うために「会社員」という「役割」に閉じ込められ、自分の人生を生きることもなく、ただひたすらその「役割」を全うしようとした源雄。
しかし、いつの間にか「役割」が彼の人生そのものになってしまっていました。
そして、その「役割」が終わった時、残りの人生には「空虚」という名の巨大な穴が待ち構えていたのです。
かつてフランスのジャーナリストが、夜遅くまで煌々と明かりの灯る、東京のオフィスビルを見上げてこう言ったことがあります。
「これはサラリーマンではない。ソルジャー(戦士)だ」
戦士は、まさに勝つことだけを目標に毎日戦っていますが、勝った後どうするかまでは考えていません。
忠実な企業戦士だった源雄を、一体誰が責められるでしょう。
いいか悪いかは別にして、私たちだって多かれ少なかれ、その「役割」の中で生きていくしかないのですから。
その「役割」に関して、吉武輝子はちょっと面白い提案をしています。
それは「役割定年」という考え方です。
定年を一つの区切りと考えて、それまで演じてきた「役割」を辞めて、本来の「やりたかったこと」、「なりたかった自分」を思い出してみませんかという提案です。
これは、女性も同じです。
「妻」や「母」という「役割」にも定年を設けてみませんか、と彼女は言います。
学生の頃、社会人になる前、あるいは家庭を持つ前、あなたはどんな夢を持っていましたか。
何になりたかったですか。
それを思い出して、できる範囲でいいから少しずつ始めてみませんか。
ヨーロッパでは、定年に達する前に自分から会社を辞めて、後は自分のやりたいことをやるというサラリーマンがとても多いそうです。
アメリカは「雇用における年齢差別禁止法」という法律で、公共交通機関の運転手などの特定の職業を除いて、会社が定年年齢を決めることを禁じています。
だから、年金の支給が開始される、62~70歳までの間に自分の判断で退職するのです。
「役割」を終えた後、自分のやりたいことは一体何なのか、
それがはっきり分かっているからこそ、自分の意思で自分の定年年齢を決めることができるのです。
この辺は見習いたいものですよね。
それにしても、吉武の壮絶な体験に比べると、薄っぺらな内容の定年後指南書のなんと多いことか。
そもそも、学校に入学する時や、社会人になる時には指南書なんか読まなかったくせに、いざ定年後となるとなぜみんな指南書にご教示を仰ぎたくなるのでしょうか。
吉武輝子の著書の存在を教えてくれた勢古浩爾が、『定年バカ』という本の中でユニークな見解を述べています。
定年だけは、ベクトルの向きが逆だというのです。
学校でも会社でも、これから組織に入る時は、その組織の中で指南を受けることができます。
でも定年だけは逆で、これから組織を出ていく形になります。
その時私たちは生まれて初めて、自分の頭でこれからの生き方をどうするか考えなければならない事態に遭遇するのです。
私たちはもう、“の”のつく組織には属していないのです。
ようやく謎が解けました。
定年後の指南書がこんなにも流行る理由は、日本のサラリーマンが重度の「組織依存症」に罹患しているからです。
組織の中にいて、「ああしなさい」とか、「こうした方がいいですよ」と、いちいち指図されることに慣れきってしまった私たちは、丸裸の自分になったらこれからどうしたらいいのかと不安でしようがなくなり、ついつい指南書に手を伸ばしてしまうのです。
若手社員をつかまえては、「指示待ち姿勢ではダメだ」とか、「もっと主体性を持って仕事をしろ」などと偉そうに説教を垂れてきた私たちですが、自分の人生に関して言うならば、今まで主体的に生きたことなど何回あったでしょう。
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