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5☆s 講師ブログ

「了解」と「待て」(2)

1942年6月、アメリカ軍が占領するミッドウェー島の攻略を目指した日本海軍の空母機動部隊は、「赤城」、「加賀」、「蒼龍」、「飛龍」の主力空母4隻を擁する精鋭部隊。
迎え撃つアメリカ軍の戦力は、空母機動部隊と島内の基地航空部隊。
両軍の戦力から見て、誰もが日本海軍の圧勝を予想していました。

ところが、南雲忠一中将の指揮ミスが予想外の結果をもたらします。
そもそも、山本五十六元帥からの命令自体が、やや曖昧なものでした。
その命令とは、「ミッドウェー島の攻略」と「米空母機動部隊の壊滅」。
つまり、2つの命令が優先順位がはっきりしないまま伝えられていたのです。

南雲はまず、偵察機に米空母部隊の索敵を命令しました。
ところが、そこに現場からの報告が入ります。
「島攻略のため、第2次攻撃の要あり」

そこで南雲は、4隻すべての空母に対して、島攻略の準備をするよう命令します。
すなわち、空母攻撃用の魚雷をすべて降ろして、陸上攻撃用の爆弾に積み替える作業にかかれと命じたのです。
やっとのことで積み替え作業を終えた、その時でした。
索敵機から、敵空母発見の知らせがもたらされます。

すると今度は、慌てて空母攻撃用の魚雷に積み戻す作業が始まりました。
しかし、時すでに遅し。
アメリカ軍の艦載機がここぞとばかりに急降下で襲いかかり、無防備の空母に爆弾の雨を降らしたのです。

結果、4隻の空母と290機の搭載機のすべてが海の藻屑と消えます。
歴史に残る大敗北。
以後の日本は、敗戦への坂道を猛スピードで転げ落ちることになります。

伊藤は考えます。
もし、「島攻略のため、第2次攻撃の要あり」との報告があった時、南雲が部下に意見を求めていたらどうだっただろう、と。
部下から、例えば「これは空母を誘い出す敵の作戦では?」とか、「敵機に急襲されることを考慮し、とりあえず空母2隻だけ積み替えてはどうか」とか、「島の攻撃は空母がいないことを確認してからでいいのではないか」といった、合理的な意見が出されていたかもしれません。

南雲忠一は優れた軍人です。
海軍では「猛将」として、数々の武勇伝が語り継がれている人物でした。
瞬時に英断を下すことができたからこそ、中将にまで上り詰めたのです。

しかし、どんなに優れたワンマンタイプのリーダーでも、残念ながら全知全能の神ではありません。
すべてを独断で判断していたために、最後は愚かなリーダーとして、歴史に名を残す結果となってしまいました。
当時の日本海軍は、自由に意見を言える雰囲気づくりを目指してはいましたが、実現できた艦は少なかったようです。

強烈な「トップダウン」、すなわち部下の意見具申を許さない「上意下達」の背景には、部下を軽視する思想があるのではないでしょうか。
つまり、高い目標を達成するためには、階級の低い兵隊はある程度「使い捨て」になるのは仕方がない、という考え方です。
現代のブラック企業にも共通するところがあるように思えてなりません。

でも伊藤はなぜ、そのような思想に背を向けることができたのでしょう。
そもそも伊藤は、自衛官になるつもりなどなく、友人との付き合いで防衛大学校を受験したのでした。
国防に対する強い想い入れがあったわけではないので、防大に入ってもアメフトの練習に明け暮れます。
ところが、4年生の夏に階段から落ちてケガをしてしまいます。
下された診断は、「骨化性筋炎」という治療困難な病気。

不名誉なことに防大初の卒業延期者となり、治る見込みがないまま自衛隊別府病院でひたすらリハビリに励む日々を過ごします。
目の前が真っ暗になり、自衛隊での出世どころか任官さえ難しいだろうと思い始めました。

挫折の真っただ中で出会ったのが、一緒に闘病に取り組む自衛官たちでした。
戦車の事故でかろうじて一命をとりとめた者や、無反動砲で片腕を失った者。
中には、作業中の土砂崩壊事故で下半身不随になりながらも、後に日本人として初めて車いすマラソンでパラリンピックに出場した者もいました。
このアスリートは、上半身が使えないなら下半身を鍛えればいいと教えてくれます。

みんな伊藤より重症の人たちでしたが、とにかく明るく、そして懸命に生きている姿を目の当たりにして伊藤の人生観は大きく変わります。
部下ひとりひとりに対する暖かい眼差しは、この時培われたものでしょう。

部下に対して「了解」と「待て」しか言わないということは、分析・検討の大部分を部下に委ねてしまうことに他なりません。
これは勇気が要りますよね。

でも、よく考えてみてください。
仕事を任されることのない部下は、一体どうやって成長すればいいのでしょう。
「君ならどうする?」という問いかけは、「君が将来私のポジションについたらどう判断する?」という問いかけに他なりません。
部下にとっては、ひとつ上のポジションでの判断力を養う絶好のチャンスなのです。

海上自衛隊では、上司への進言のことを「リコメンド」といいますが、「上司にリコメンドしてもよい」ではなく「上司にリコメンドしなさい」という考え方が前提になっています。
だからこそ、「君ならどうする?」という問いかけが有効なのです。

「言われたことしかやらない」と部下への不満を漏らす上司に限って、進言しづらい雰囲気の人だったりするものです。
「進言してもいい」ではなく、「進言しなさい」ということならば、部下は積極的に自ら考えるようになるでしょう。
いや、考えざるを得なくなるはずです。
これが育成というものではないでしょうか。

あなたの、仕事に対する強い責任感はわかりますが、部下の意見を聞くことをせずにすべての判断をたったひとりで下していると、やがて判断を誤ることになるかもしれません。
周囲には意見を進言してくれる部下もいなくなるでしょう。
もしかしたらあなたは今、南雲中将と同じ道を歩んでいるのかもしれませんよ。

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