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5☆s 講師ブログ

六花亭

どこの会社でも、よほど景気が悪くない限り、前年を上回る「売上数字」の目標を立てます。
みんな、少しでも会社を大きくしたいからです。
中には、「売上数字」の達成ノルマがいつの間にか絶対化してしまい、コンプライアンスに抵触しかねない事態が発生している会社もあります。

ところが、従業員が1,300名を超える大企業であるにも関わらず、「売上数字」の目標を一切設定せず、規模の拡大も目指さないという会社があります。
帯広に本社を置く六花亭製菓は、1933年創業の老舗。

この会社には、「売上数字」に代わる明確な目標があります。
それは「客数を増やすこと」です。
この目標を全従業員に徹底するために、すべての店舗に以下の詩が掲げられているそうです。

「あなたの今日の仕事は たった一人でよい この店に買いにきてよかったと 満足してくださるお客様を作ることです」

従業員の仕事は、売上数字を伸ばすことではなく、お客様に満足していただくことだと、高らかに宣言しているのです。
ただし、普通の顧客満足レベルではダメなのです。
詩の続きを見てみましょう。

「六花亭があるおかげで お客様一人一人が 人生は楽しいと 喜んでくださることです」

顧客満足を目標とする企業はたくさんありますが、お客様が「人生は楽しい」と喜んでくれることを目指している企業など聞いたことがありません。

でも、どうやったらお客様に「人生は楽しい」と喜んでもらえるのでしょうか。
それは、従業員ひとりひとりが考えなければなりません。
マニュアルがないのです。

はっきり言って、「売上数字」を目指す方が楽だと思いませんか?
なぜなら、目標が達成できなかったら、経営者や商品のせいにすればよいのですから。

でも、今日来店したお客様が誰ひとり、「人生は楽しい」と感じなかったとしたら、それはあなたの責任なのです。
そのことを、従業員全員が真剣に考え続けた結果、六花亭はファンを増やすことに成功したのです。
ただ、増えるスピードはゆっくりです。
なにせ、1日1人ずつしか増えないのですから。

六花亭製菓が目指したのは「規模の拡大」ではなく、「企業の永続性」でした。
メディアでは、短期間で急成長したベンチャー企業が、「時代の寵児」として脚光を浴びています。
しかし、その記事を読むと、まるで成長スピードの自慢大会をしているかのよう。

経営者にとって、「企業の永続性」など頭の片隅にも存在しないように見えます。
もし、会社が行き詰まったら、株を売り払ってしまえばよいと考えているのかもしれません。
時代の変化が激しいから、手っ取り早く売上を上げて、手っ取り早く現金を手にした方がいいということなのでしょう。

六花亭製菓では、ファンを増やすという会社の哲学をさらに徹底するために、毎日『六輪』という社内新聞を発行しています。
従業員の日頃の取り組みが紹介されるだけでなく、仕事の改善提案も掲載されています。
その提案も、多い時は1,000通も寄せられることがあるそうです。
従業員ひとりひとりが、どうやったらお客様に満足してもらえるのか、日々真剣に考えている証拠です。
こんな会社が他にあるでしょうか。

「売上数字」は、「顧客満足」を目指した結果としてもたらされる果実であることは、多くの経営者が知っています。
そして、「顧客満足」を会社の目標に掲げることも難しいことではありません。

やろうと思えば明日からでもできます。

でも、「売上数字」という目標を無くすだけの勇気が、経営者にあるでしょうか。
ましてや、「顧客満足」を実現するために、従業員が自発的に改善提案をする風土を築くにはかなりの時間がかかりますが、それまで我慢できるでしょうか。

どうやら「顧客満足」というのは、「売上数字」と同じレベルで語るような代物ではなく、もっと崇高な「理念」とか「哲学」に近いもののようです。

それを人々は、「ヴィジョン」と呼ぶのです。

従業員が真剣に仕事に取り組むのは、「売上数字」を達成したいからではありません。
「ヴィジョン」を実現したいからです。

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