株式会社ファイブスターズ アカデミー
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「妖精(フェアリー)」と聞くと、どうしても手のひらに乗るほど小さな、背中に羽根の生えた少女を思い浮かべてしまいます。
ところがスコットランドでは、「妖精」には魔物や妖怪の類いも含まれるのだそうです。
たとえば、猫の妖精ケット・シーは、緑色の瞳で全身黒い毛に覆われていますが、胸のところだけまるでエプロンを掛けたようにまっ白。
猫社会の王として君臨し、二本足で歩いたり人間の言葉を話したりすることができるのですが、普段は正体を隠して普通の猫として暮らしています。
瞳の色はともかくとして、もしかしたら私たちの近所にもケット・シーがいるかもしれませんね。
ところで、ウィスキー好きにとって最も有名な猫と言ったら、『グレンタレット』蒸留所のタウザー君です。
かつてスコットランドでは、どこの蒸留所でもネズミから樽を守るためにウィスキー・キャットを飼っていましたが、タウザー君が22年と11カ月のその生涯で捕まえたネズミの総数は、驚くなかれ28,899匹。
もちろんギネスブックにも載っています。
1987年に惜しまれつつこの世を去りますが、翌日の新聞に死亡記事が掲載されたといいますから、いかにスコットランドの人々に愛されていたかがわかります。
もしかしたら、タウザー君の正体は妖精のケット・シーだったのかも。
ところで、猫ではなく馬の妖精が出没するのが、スペイサイドに位置する人口5,000人あまりの小さな町キース。
アイラ川近くにあるフォンズブリエンの湧き水の井戸には、日暮れになると決まって馬の妖精が現れると言い伝えられてきました。
なんでも、井戸に近づく者をその背中に乗せて、川や湖に引きずり込んでしまうのだとか。
そのため、人々はこの妖精を恐れて、滅多なことでは井戸に近づこうとしませんでした。
こうして、ハイランド地方最古の歴史を誇るモルト・ウィスキー、『ストラスアイラ』の仕込み水は長い間守られてきたのです。
『ストラスアイラ』は、その製法も昔ながらの木製発酵槽での仕込みと、石炭による直火蒸留が特長。
果実香とともに、微かに干し草の香りも漂う柔らかな口当たりは、例えるならばまさに「ファンタジー」。
妖精が守りたくなるのも無理はありません。
ところが、この銘酒がもうすぐ飲めなくなってしまうのです。
その理由は『シーバス・リーガル』です。
今を去ること200年ほど前、スコットランド第3の都市アバディーンに、ウィリアム・エドワードという男が小さな食料品店をオープンさせます。
ワインも扱うその店は順調に売り上げを伸ばし、やがてシーバス男爵に連なる名門の家系の従兄弟をパートナーとして迎え入れます。
その男こそ、ジェームズ・シーバスでした。
彼が目をつけたのは、当時世間で注目され始めていたウィスキー。
1948年には、ヴィクトリア女王から女王御用達の勅許状(ロイヤルワラント)を授けられたことからも、相当やり手の経営者だったことがわかります。
エドワードの死後、ジェームズは弟のジョンを共同経営者に据え、あの有名なシーバス・ブラザーズ社を誕生させます。
そして、満を持して発売したブレンデッド・ウィスキー『グレンディー』が、貴族や上流階級の間で大ブレイク。
なんと、ハプスブルグ家の皇帝からも注文が舞い込んだと言います。
ところが、ジェームズの死後、跡を継いだ彼の息子が急死してしまい、会社は未曽有の危機を迎えます。
急遽、長年ジェームズの助手を努めてきたアレキサンダー・スミスが経営のバトンを引き受けますが、スミスが三顧の礼をもって招いたブレンダーがC・S・ハワードでした。
ハワードが『グレンディー』をさらに発展させて完成させたのが、『シーバス・リーガル』。
シーバスは「シーバス家の」という意味ですが、リーガルには「王家の」、「堂々とした」、「極上の」という意味が含まれています。
このネーミングからも、ジェームズへのリスペクトのほどが窺えますよね。
ブレンデッド・ウィスキーながら、12年以上熟成させた原酒だけでブレンドしたことから、以後「12年もの」が高級スコッチの代名詞になってしまいます。
カナダのシーグラム社の傘下に入ったことをきっかけに、核となるモルトの安定確保のために買収したのが、妖精の馬に守られてきたあのストラスアイラ蒸留所。
その後、同じキースの町でもアイラ川の対岸にある『グレンキース』など、合計9つの蒸留所を所有する大企業に成長し、売上は益々右肩上がりとなります。
ところが、あまりに売れすぎたことが問題を引き起こしてしまいます。
キーモルトの『ストラスアイラ』が不足する恐れが出てきたのです。
『シーバス・リーガル』の中で『ストラスアイラ』の比率が非常に高いことは、飲み比べをしてみるとすぐにわかります。
とてもよく似た味わいなのです。
そのため、経営陣はやむなく『ストラスアイラ』の終売を決断しました。
かつて『ストラスアイラ』を馬の妖精が守ったように、今度は『シーバス・リーガル』を人間が守ったというわけです。
ファンタジーな味わいのモルト・ウィスキーが飲めなくなるのは残念ですが、殊更嘆く必要はありません。
なぜなら、私たちはこれからも『シーバス・リーガル』の中で、馬の妖精に守られてきたあの湧き水に出会うことができるのですから。
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