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5☆s 講師ブログ

トヨタのマニュアル(2)

NHKのBSプレミアムの番組で紹介されたのは、京都の名だたる老舗料亭の主人たちが何人も集まり、各料亭に代々伝わる秘伝の調理法を科学の視点で分析しようという試みでした。
門外不出の調理法ですので、当然難色を示す主人もいます。
しかし最終的には、今の若い料理人を育てるには、科学的根拠を明らかにすることの方が大事だという考えが勝りました。

大学の研究室の協力の下、厨房には様々な機器が運び込まれます。
魚の身に針金状の温度計を刺して、焼いている間の経過時間毎の温度変化をグラフ化したり、焼きあがった身の硬さや水分含有量を専用の機械で計測して数値化します。
そして、熱源からの距離や焼き時間をいろいろ変えてみた魚と比較するのですが、結果は驚くべきものでした。
それまで主人たちが漠然と考えていた仮説のほとんどが、見事に覆されてしまったのです。

ある魚は非常にジューシーに焼き上がっているので、恐らく水分が多く残っているのだろうと推測していたのですが、計測した結果は全く逆で、むしろ水分量は少ないという結果が出ました。
その代わり、ある温度帯を一定時間保ったことで、コラーゲンがより多くゲル化していることがわかりました。
ジューシーさの正体はこれだったのです。

次々と明らかにされる予想外の事実に驚きながらも、私には心配なことがひとつありました。
それは、門外不出の秘伝の技をテレビで公開してしまったら、多くの店が真似をしてしまうのではないかということです。
しかし、それが全くの杞憂であることが、番組の最後のシーンで知らされます。
ある老舗の店先にトラックが横付けされます。
店の主人が、メーカーと共同で開発したオーダーメイドの新型の魚焼き器を搬入していたのです。
理想とする焼きを追求するために、どこにもない機械を新たに作ってしまったというのです。

老舗の主人たちは知っているのです。
昔のやり方に固執していては絶対にダメだと。
常にチャレンジをして時代に合わせて変化させていかなければ、いずれ廃れてしまうということを。

古くからの伝統を頑固に守り続けているように見えた老舗店こそ、実は最高のイノベーターだったのです。
彼らは、秘伝の調理法を科学の目で解明することによって、変えてはならない部分はどこで、変える余地のある部分はどこかということを見定めようとしていたのです。
これこそ「カイゼン」そのものではありませんか。

秘伝の技が公開されたことで、たとえ世間の人たちに真似されるようになったとしても、その頃には自分はもっと先に行っているという自負があるのでしょう。
料理人という典型的な「職人技」の世界で、絶え間ない最先端の技術開発が行われているとは思いもよりませんでした。

あなたの会社の作業マニュアルを開いてみて下さい。
そこに記載されている手順のうち、何が「急所」なのか明記されていますか。
また、その論理的、科学的な根拠が何であるかについて、納得のいく説明がなされていますか。
もしかしたら、何年も前から受け継がれてきた伝統的なやり方を、ただ単にそのまま踏襲しているだけではありませんか。

仕事は伝統芸能ではありませんよ。
一度、「論理」や「科学」という視点で作業マニュアル見直してみると、案外もっといいやり方が見つかるかも知れません。

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