株式会社ファイブスターズ アカデミー
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ハリガネムシという、かなり込み入った生き残り戦略を駆使する寄生虫がいます。
もともとは水生生物なので川や沼で暮らしていますが、生まれた赤ちゃん、つまり卵から孵化した幼生は、呆気なくカゲロウやユスリカなどの昆虫に食べられてしまいます。
でも、それで一巻の終わりというわけではなく、その昆虫の腸の中でしぶとく生き続け、じっとその時を待つのです。
やがて、カゲロウやユスリカは羽化して大空に飛び立ちますが、カマキリやカマドウマなどの陸上で生息する昆虫に捕まって食べられてしまいます。
実は、ハリガネムシはこの時を待っていたのです。
ハリガネムシの最終的な宿主は、カゲロウやユスリカなどの小さな昆虫ではなく、その捕食者であるカマキリやカマドウマなどのより大型の昆虫の方なのです。
小さな昆虫に寄生していても、成長するための十分な栄養は得られません。
そこで、最初の宿主が大型の昆虫に食べられることを見越して、まずは小さな昆虫に寄生していたのです。
計算通り、本来の大型宿主からたっぷりの栄養を貰って、すくすくとハリガネのような成虫に成長しますが、ここでひとつ問題が生じます。
ハリガネムシが子孫を残すためには、もともと住んでいた水中に戻らなければならないのですが、カマキリやカマドウマなどは水辺を避ける習性があります。
これはピンチ!
そこで、世にも恐ろしいハリガネムシの生き残り戦略が発動されることになります。
まず、特殊なタンパク質を分泌するのですが、このタンパク質は宿主の脳を乗っ取ってしまう作用があります。
これ以降、宿主であるカマキリやカマドウマは、ハリガネムシの操り人形と化してしまうのです。
脳を乗っ取られた宿主は、そのタンパク質の命令に従って普段は絶対に近づかない水辺へと歩を進め、ついには入水自殺のように川に飛び込んでしまいます。
その瞬間、ハリガネムシは宿主のお尻から脱出し、つがいを求める旅に出るのです。
恐ろしく回りくどい戦略ですが、水中に落下した昆虫は川魚の貴重なエサとなり、食物連鎖に貢献することになります。
もし、このハリガネムシの戦略がうまく機能しないと、魚は水生昆虫をエサにせざるを得なくなります。
研究者によれば、水生昆虫が減ると彼らがエサとしている藻が増えてしまい、結果として生態系そのものが変わってしまうのだそうです。
自然と言うのは、何とも絶妙なバランスの上に成り立っているものなのですね。
それにしても、寄生虫に脳が乗っ取られてしまうなんて、昆虫の脳が小さいからだろうと思っていたらこれが大間違い。
哺乳類でも脳が乗っ取られるケースがあるのです。
トキソプラズマという単細胞生物がいます。
哺乳類に寄生するのですが、毒性が極めて弱いため、例え感染したとしても特に問題は起こらないと考えられてきました。
でも、マウスだけは違うのです。
脳が乗っ取られてしまうのです。
まず、マウスの動作が緩慢になります。
同時に恐怖という感情がなくなり、ネコを怖がらなくなってしまいます。
マウスにとってネコは捕食者ですので、普通はちょっとでもネコの匂いがしただけでマウスは一目散に逃げ出しますが、ネコを怖がらないどころか逆に近づいていくようになります。
もう、おわかりですよね。
トキソプラズマの最終的な宿主は、マウスではなくネコなのです。
トキソプラズマは無性生殖でも増えますが、ネコの体内にいるときのみ有性生殖が可能です。
だから、マウスの脳を乗っ取ってネコに対する恐怖心を取り除いた上で、ネコが捕まえやすいように、ご丁寧に動作を緩慢にしてあげているのです。
ところが最近になって、統合失調症の患者にトキソプラズマの抗体検出率が高いことがわかりました。
どうやら、母親の子宮内で母子感染したことが原因のようです。
しかし、そもそもトキソプラズマの感染検査を受ける人がいないので、ヒトの感染率がどれくらいなのか全くわかっていません。
日本の感染率は低いと思われますが、世界的には30%くらいではないかという説もあります。
さらに2013年、カレル大学のフレグル博士らのグループによって、もっと恐ろしいことが報告されました。
トキソプラズマに感染すると、ヒトでも動作が緩慢になり、無気力になる傾向があるというのです。
さらには、猫好きになるという決定的な症状も観察されました。
博士らによれば、この傾向は特に男性に顕著だったとのこと。
もしかしたら、あなたの近くにもトキソプラズマに感染している男性がいるかもしれません。
もし、「人間がネコに食べられた」というニュースを見かけたら、トキソプラズマの存在を疑ってみる必要がありそうですね。
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