株式会社ファイブスターズ アカデミー
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私がまだ若手社員だった頃の話です。
転勤で職場が変わったのを機に、自分の仕事が終わったら、残業せずにさっさと帰宅するようにしました。
居残りしている先輩たちは、特に急ぎの仕事を抱えているわけでもなく、課長がまだ帰らないので仕方なく残っているように見えたからです。
ところが、3日目には上司に呼び出され、別室でミッチリ説教されます。
上司は開口一番こう言いました。
「お前はサラリーマンを何だと思ってるんだ!」
当時、このような会社は珍しくありませんでした。
というより、ほとんどの会社がこんな雰囲気だったのではないでしょうか。
いや、正確に言うと当時だけでなく、「働き方改革」という黒船が出現するつい最近まで、多くの会社でこのような風土が残っていたように思います。
周りに合わせて居残りする行為は、職場への「協調性」を証明する「踏み絵」のような役割もありました。
そして、チームの全員が机を並べて夜遅くまで一緒にいることによって、組織の一体感が醸成されていくのだと堅く信じられていたのです。
コンサルタントの秋山進は、『一体感が会社を潰す』という本の中で、この問題に鋭くメスを入れました。
特に、この本のサブタイトルが秀逸。
曰く「異質と一流を排除する子ども病の正体」。
30以上の組織にコンサルタントとして席を置いた経験をベースに、日本の会社に共通する問題体質を見事にあぶり出します。
ある時、彼が残業していると、企業のトップが職場に来て「焼き肉を食べに行こう」と食事に誘います。
しかし、既に夕食をすませてしまっていた上、急ぎの仕事がかなり残っていたので断りました。
すると、次の日からトップの態度に冷たいものを感じるようになったと言います。
後から聞いた話では、この会社では上司の誘いに馳せ参じるかどうかというのが、部下の忠誠心を測るバロメーターなのだそうです。
こういうことを、秋山は「子ども病」と称しているのです。
「大人」の会社ならば、部下を評価する基準は、どれだけの「成果」を挙げたかです。
絶対に、上司への「忠誠心」ではありません。
ただ、「子ども病」の会社において、管理職に昇進することはそれほど難しいことではありません。
なぜなら、管理職に求められる能力はマネジメント力ではなく、「我が社のやり方」に沿った「調整力」や「根回し力」だからです。
すなわち、「どういう資料が好まれるのか」、「誰に話を通しておくと物事が進めやすいのか」、「決定権者が重視する判断基準は何か」などの勘所を抑えてさえいれば、十分管理職が勤まってしまうのです。
だから、自分の担当分野に関して「プロ」になる必要はありません。
他社でも通用するような、所謂「一流」のスキルを身につけたところで、「子ども病」の会社では大して評価されないからです。
「一流」になることよりも、同質な組織の構築に貢献することの方が重視されます。
「一流」と「異質」は、組織の「一体感」を醸成する上では却って弊害であると見做されて、排除しようとする力学が働いてしまうのです。
ところが、バブル崩壊を機にビジネス環境は激変し、企業は生き残りを賭けてM&Aに活路を見い出すようになりました。
また、グローバル化が進み、国籍が異なる人々と協力して仕事をする機会も増えました。
まさに世の中は「ダイバーシティ」真っ盛り。
会社の中に異質な文化がどんどん流れ込むようになると、それまで高く評価されていた「調整力」や「根回し力」は次第に意味を持たなくなってきます。
そして、当然のことながら、その会社でだけ通用する手法よりも、グローバル・スタンダードに則ったスキルの方が高く評価されるようになります。
つまり、他社に転職しても十分通用するだけの専門能力が求められるようになったのです。
これにより、上役とのウェットな人間関係をベースにして仕事を遣り繰りする、その会社でのみ通用する能力は一気に意味を失い、「一流」の技術を持った「プロ」、所謂「専門職」が求められるようになりました。
しかし現実問題として、「専門職」を目指すための勉強をしなければならないからと言って、上司の誘いをすべて断るのはサラリーマンにとっては至難の業。
そこで秋山は、メリハリをつけることを提案しています。
どういうことかと言うと、マストの飲み会と、そうでない飲み会を分けて考えるのです。
そして、付き合い残業などはやめて、できるだけ勉強する時間を作りましょう。
通勤電車の過ごし方なども見直してみる必要がありそうですね。
もちろん、「そんな勉強はしたくない」というのなら別の方法もありますよ。
もし、あなたの会社が未来永劫に潰れる心配がなく、将来M&Aの可能性もない優良企業ならば、徹底的に「調整力」と「根回し力」を磨いて世渡りしていくのもサラリーマンの処世術のひとつ。
別に悪いことではありませんし、私もそんな人を大勢見てきました。
ただしその場合も、「調整力」と「根回し力」に加えて、あなたが忠誠を誓う上司の将来性を見抜く力が重要となります。
そしてさらには、その上司が失脚しそうになったら、いち早く別の上司に乗り換えるだけの迅速さが必須です。
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