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5☆s 講師ブログ

MBWA(1)

『リーダーにカリスマ性はいらない』の著者の赤井誠は、転職してきた新任の本部長から電話で呼び出しを受けた時、強烈な違和感を覚えました。
なぜなら、日本HP(ヒューレット・パッカード)に入社以来、上司のデスクに呼びつけられたことが一度もなかったからです。
用事がある時は、上司の方から部下のデスクに出向くというのがこの会社のスタイルでした。

HPの共同創業者、ビル・ヒューレットとデビッド・パッカードは、「オープンで中立的なチーム」を実現するために、他にも様々なマネジメント手法を編み出しました。
例えば、アメリカでは個室を与えられるのがエグゼクティブのステイタスですが、そのドアを開け放つ「オープンドア・ポリシー」という手法を考え出したのも彼らです。

その赤井が、当時日本HPのお荷物だったLinux(リナックス)事業のリーダーに任命された時に真っ先にやったことは、社内をウロウロ歩き回っては顔見知りの営業マンに声をかけ、Linux事業に関する話を聞かせてもらうことでした。
上司が現場を歩き回って部下の様子を観察したり、あるいは部下の話に耳を傾けたりするマネジメント手法のことを、現代の経営学では「マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド(MBWA)」と言います。

今でこそ、LinuxはスマホのOSであるアンドロイドをはじめグーグル検索や東京証券取引所のシステムなど、世界中のありとあらゆるITシステムに活用されている社会基盤のひとつですが、赤井が担当することになった2002年の日本HPのLinux事業の売上はたったの数千万円で、しかも業界シェアは最下位という惨憺たる状況でした。

ところが、その数年後には売上高は数百億円規模に達し、国内シェアもトップに踊り出ます。
Linux事業の世界トップを誇るHPグループにとっても、これは極めてアメイジングな出来事でした。
赤井がこの時オフィスを歩き回って耳にした情報は、必ずしも役に立つものばかりではありませんでしたが、営業の現場で何が起こっているのかを把握するには十分でした。
のみならず、なぜLinux事業がうまくいっていないのかという、根本的な問題をも浮き彫りにしてくれたのです。

しかし、意外なことに赤井は「現場のリーダーは、そのような本質的な課題には手を付けてはいけない」と言います。
なぜならそれは、往々にしてトップマネジメントの決断が必要な重要案件だったり、改善するまでに何年もかかるようなものだったりするからです。
現場のリーダーに求められるのは、長期的視点での改革ではありません。
四半期ごとの結果です。

そこで赤井は「大きな問題」には一切手を付けず、部下の抱える「小さな問題」をできるだけ多く、かつ短時間で解決していくことに全力を注ぎます。
「小さな問題」だからといってバカにしてはいけません。
なぜなら、リーダーにとっては「小さな問題」に見えても、部下にとっては「大きな問題」であるケースが多いからです。

とにかく現場を歩き回り、困っている部下に手を差し伸べ続けた結果、赤井はリーダーにとって最も大切な「部下からの信頼」を手にすることができたのです。
これこそまさに、「サーバント・リーダーシップ」そのものですよね。
だから、『リーダーにカリスマ性はいらない』のです。

この順序を間違えてはいけません。
あなたの革新的な試みがうまく進まないのは、そもそもそれを実行する部下からの信頼が得られていないからではありませんか?
部下というのは、上司の前ではひれ伏しているかのように振る舞いますが、決して心までひれ伏している訳ではありません。

リーダーが最初に目指さなければならないのは、部下が心から信頼を寄せる存在になることです。
さあ、部下の信頼を手に入れた赤井は満を持して問題の本質に切り込みますが、ある偉いサンから意外なことを言われます。

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