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5☆s 講師ブログ

延長12回ウラ(1)

同点で迎えた延長12回のウラ、2アウトながら満塁の大チャンス。

日本のプロ野球では延長は12回までと決められていますから、後攻めのチームにもう負けはありません。
最悪でも引き分け。

最後のバッターにヒットが出ればサヨナラ勝ちですが、たとえヒットが出なくても四球を選べば勝利です。

ところが、悪いことに打順はピッチャーに回ってしまいました。

この時、代打要因としてベンチに残っていた野手は、プロ入りしてから一本もヒットを打っていない控えのキャッチャーただひとり。

出場回数が極端に少ないこの選手には、難易度の高いサインではなく、極めてシンプルなサインを出す必要があります。

もしあなたが監督だったら、ヒット狙いで「打て」のサインにチャレンジしますか。
それとも四球狙いの「待て」のサインで安全策をとりますか。

ちなみに、以前放送されたNHK・BS1の『球辞苑』という番組で、満塁の時にどんな形で点が入ったかについて、前年のプロ野球セ・パ両リーグの膨大なデータを分析していましたが、意外なことにシングルヒットと四球の確率はほぼ同じでした。

さあ、二者択一のケースで両者の確率が同じくらいなら、あなたは「打て」のサインを出しますか?

それとも「待て」のサインを出しますか?

2007年4月20日の甲子園球場は、巨人対阪神の伝統の一戦に沸き返っていました。

1対1の緊迫した試合は12回の表に大きく動き、なんと巨人が大量3点を奪って阪神ファンを絶望の淵に追い詰めます。

ところが、粘る阪神はそのウラ猛打で追いつき、2アウト1塁、2塁のチャンスを迎えました。

ここで巨人は敬遠策をとり、あえて満塁にして打順をピッチャーに回します。

この時、ベンチに残っていた唯一の野手は狩野恵輔でした。

プロ入り7年目ながら、今まで一軍で一本もヒットを打っていない万年控え捕手です。
背番号は99。

前の年はたった2回しか打席に立っていない狩野にとって、代打となれば今シーズンの初打席。

この時監督の岡田彰布は、果敢にも「打て」のサインで狩野を送り出したのでした。

バッターボックスに向かう万年控え捕手は、緊張の極みにありました。

まるで、上半身が固まってしまったかのようなぎこちない動きを見て、阪神ファンの不安が高まります。

それでも狩野は、あえてその緊張を振り払うかのように、巨人の抑えのエース豊田清が投じた初球を狙ってスウィングしますが、ボールはワンバウンドしそうなほど低いフォーク。

バットは虚しく空を切っただけでした。
思わず、球場のあちこちからため息が漏れます。

すかさず、スタンドからは辛辣なヤジが飛びました。

「打たれへんのやったら、黙って立っとけ!」
たしかにその気持ちはわかります。

このヤジをきっかけに、「振るなよ、振るなよ」という空気が球場全体を覆い始めました。

「頼む!振らないでくれ!」
5万を超える阪神ファンの、願いにも似た熱い視線が打席の狩野に集まる中、マウンド上の豊田はおもむろに第2球のモーションに入りました。

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