企業の利益が、その利益を稼ぎ出した社員に還元されないことについて、社員から文句は出なかったのでしょうか?
出ませんでした。
なぜなら、世の中がデフレだったからです。
また、企業にとっては、株主の権利が強くなったため、株式配当に回す分も確保しなければならないという事情もありました。
かくして、会社がどんなに儲かったとしても社員にはその恩恵が回らないという体制が出来上がってしまったのです。
これを経済学の専門用語で、「労働分配率の低下」と言います。
経済というのは、お金が動くことで景気がよくなります。
406兆円もの巨額のお金が企業の内部留保として塩漬けにされていることは、景気にとっては非常に大きなブレーキとなります。
これを吐き出させなければいけません。
ここでひとつ、思考実験をしてみましょう。
もし、法人税率がかつてのように高かったらどうなっていたでしょうか?
企業は、バカ高い法人税を払ってでも、あえて内部留保しようと考えたでしょうか?
そうは思えません。
要するに給料が上がらないのは、アベノミクスが失敗したからではなく、法人税率が引き下げられたことで企業のビヘイビアが変化したからです。
そこで、給料を上げる方法が見えてきます。
法人税率を引き上げればよいのです。
利益に対してバカ高い法人税を課せば、企業は社員への給料やボーナスを増やそうとするでしょう。
さらには、研究開発や設備投資に支出をしたら、その分法人税を減税するという政策も効果的です。
例えば、研究開発や設備投資につぎ込んだ金額と同じ額を、別途利益から非課税枠として差し引いてあげたらどうでしょう。
つまり1億円の利益が出た場合、そのうち5000万円を研究開発や設備投資に使ったら、残りの5000万円は丸々非課税となり内部留保できるという仕組みです。
それでは税収が減ってしまうというのなら、非課税枠は半分の2500万円でもいいです。
これなら景気高揚にも、技術革新にも繋がります。
アベノミクスの3本目の矢は、「民間投資を喚起する成長戦略」だそうですが、これにピッタリの政策だと思いませんか?
ついでに、トマ・ピケティの言うように、所得税の累進課税の傾きをもっと急にして、金持ちからガッポリ税金を取って低所得者層に分配すれば格差も縮まります。
低所得者層の所得が増えれば、その多くは消費に回ります。
消費が増えると、確実に景気はよくなります。
景気がよくなれば、自然と税収は増えるものです。
これと全く正反対の効果となってしまうのが、消費税率の引き上げです。
消費税率を引き上げると消費は冷え込みますので、企業にとってはモノが売れなくなります。
モノが売れないと、企業の利益は減ります。
すると、国に納める法人税も減ります。
また、景気が悪くなると、企業は社員の給料を引き下げようとします。
社員の給料が減ると、国に納める所得税も減ります。
1997年に消費税率を3%から5%にアップした時、日本の景気は極端に悪化しました。
その結果、消費税の増収分と、法人税・所得税のマイナス分が相殺され、結果的に国全体の税収は4・5兆円もマイナスとなってしまったのです。
ここからあの忌まわしいデフレが始まりました。
もし、消費税率を10%に引き上げると、この時以上に消費が落ち込むことは明らかです。
なぜならモノを買う時、税率8%なら消費税がいくらになるか、計算が面倒なのであまり意識しませんが、10%だと消費税がいくらかすぐに暗算できます。
ですので、買い控えが相当増えると予想されるからです。
ここに、給料を実質的に上げるもう一つのヒントが隠されています。
それは、消費税率を引き下げるか、さもなくば消費税そのものを廃止することです。
考えてもみてください。
消費税率の引き上げを声高に主張しているのは、国会議員や官僚、さらには大学教授や新聞記者などです。
彼らの職業に共通している点が何かわかりますか?
それは、景気が悪くなってもリストラされる心配がないということです。
景気がどんなに悪くなっても、絶対に失業しない安全圏に住む人たちの意見に惑わされてはいけません。