5種類のミルクセーキを同時に作れる「マルチミキサー」という飲食店向けの機械の、
しがないセールスマンにすぎなかったレイ・クロックが、
あるハンバーガーショップに興味を引かれたのには理由があります。
この店が使っているのと同じミキサーをくれという注文が、毎日のように舞い込んできたからです。
ロサンゼルス郊外サンバーナーディノにあるその店は、なんとこのミキサーを8台も使っていました。
「よほど繁盛しているのだろう。一体どんな店なのだろうか?」
彼がすぐに現地に赴いたことは言うまでもありませんが、その時の行動が少しばかり人と違っていました。
まず開店前に到着し、しばらく店の外観を観察します。
最初に不思議に思ったのは、店には目立った特徴がないにもかかわらず、開店と同時に次々と車が押し寄せて来てあっという間に行列ができたことです。
レイは、その行列に並んでいる男に人気の理由を尋ねます。
その返事はこうでした。
「ここは初めてか?それじゃじきにわかるよ。
15セントにしては最高のハンバーガーが食えるのさ。
待たされてイライラすることもないし、チップをねだるウェイトレスもいない」
今度は店の裏手に回ります。
しゃがんだままハンバーガーにかぶりついている男に、週何回くらい来るのかなどと矢継ぎ早に質問を浴びせる間も、休むことなくあちこちに視線を飛ばします。
驚くべきことに暑い日にも関わらずハエは一匹もいないし、駐車場にはゴミひとつ落ちていません。
レイがこの店の経営者であるマックとディックの二人の兄弟に挨拶したのは、客足がひと段落した午後2時半でした。
そしてその日のうちに二人をディナーに誘い出し店のことを詳しく聞いているうちに、見事に効率化された調理システムにいたく感心させられます。
レイのことを気に入った兄弟は、新店舗の設計図まで見せてくれました。
翌朝レイがモーテルで目を覚ましたときには、すでに頭の中に『マクドナルド』をフランチャイズ展開する青写真が出来上がっていたというから驚きです。
そしてその青写真は、その後の30年間で500億円を超える富をもたらしてくれることになります。
レイは自分の足で動き回り、自分の目で確かめ、自分の手で触り、自分の口で質問し、そして自分の頭で考えなければ気がすまないタイプの人間でした。
こういう人種は成功のチャンスを待つというより、自ら引き寄せるもの。
「幸運は汗に対する配当である」が口癖だった52歳の中年セールスマンが、ようやくその配当の糸口を見つけたのです。
しかもレイの行動力は筋金入りでした。
同僚と、ライバル店との競争にどう打ち勝つかという議論になった時のことです。
「相手の店にスパイを送り込んでアイデアを盗んだら」という提案に対して、烈火のごとく怒った彼はこう言い放ったのです。
「競争相手のすべてを知りたければゴミ箱の中を調べればいい。
知りたいものは全部転がっている」
『成功はゴミ箱の中に』というレイの自伝の一節です。
これは本当の話です。
発言はこう続きます。
「深夜2時に競争相手のゴミ箱を漁って、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのか調べたことは、
一度や二度ではない」
なんという執念でしょう。
今やインターネットを使えば、数秒で調べものを済ませられる時代。
しかし、その情報は誰でも目にすることができるものです。
そんなところに真実が転がっているのなら、とっくの昔に誰かが見つけて取り組んでいるはず。
いつの時代も自分の足で、目で、手で、口で確かめることが大切なのですね。
どんなに優秀な頭脳の持ち主でも、行動しなければ意味がない。
レイは、こんな言葉も残しています。
「天才はだめだ。報われない天才は、問題児ときまっている。
秀才もいかん。この世は成功できない秀才がうじゃうじゃいる。
学歴だけでもだめだ。どこもかしこも、学歴の高い怠け者ばかりだ」