株式会社ファイブスターズ アカデミー
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年度の変わり目は、肩書きの変わり目でもあります。
そして、あまり納得のいかない昇格人事が発表され、仕事のモチベーションが下がる季節でもあります。
カナダ生まれのローレンス・J・ピーターが、教育学者として関わっていた高校の校長に、ある違和感を覚えたのは1960年代のことです。
それは、校長の関心がたった三つの事に集中していることでした。
一つは、窓のブラインドが同じ高さにきれいに揃っているか。
次に、授業中の教室は静かか。
最後は、バラの花壇に足を踏み入れる者はいないか。
ピーターは考えました。
そんなことは校長ではなく、一般教諭の仕事ではないのか。
校長ならば、教育のあり方などもっと高いレベルの事に関心を持つべきではないのか。
ところが、ピーターが他の教区の高校に出向くと、そこでも同じような傾向が見られるではありませんか。
なぜどこの高校も、こんなにレベルの低い校長ばかりなのでしょうか?
そして、ある日閃きます。
昇格を決める人事制度に原因があるのではないかと。
一般に、校長に昇格する人は優秀な教諭の中から選ばれます。
ここで言う「優秀な教諭」の定義は、ブラインドの高さを揃えるほど几帳面で、生徒を厳しく叱って教室を静かにさせ、バラの花壇に踏み入れないというルールをキチンと守らせる先生のことです。
そういう教諭が、校長に抜擢されていくのです。
しかし残念なことに、そのような人が教育のあり方について真剣に考える機会は、それほど多くはありません。
かくして校長職には、本来その職務には不適任な人が名を連ねる事となるのでした。
しかもピーターの調査によれば、この現象は学校に限りませんでした。
市役所の公共事業部営繕課に、よく仕事ができると上司から高く評価されている現場責任者がいました。
その責任者は、主任が定年退職したおかげで目出度く主任職に昇格しますが、
そのとたんに組織は機能不全に陥ってしまいました。
営繕課の主任に求められる能力は、市民から寄せられる様々な要望に優先順位をつけて、
すぐに着手すべき案件と、後回しにしてもよい案件を的確に判断することです。
一方、現場責任者に求められる能力は、主任から指示されたことを素直にハイハイと聞いてすぐやることです。
それぞれのポストで、求められる能力は全く違っていたのです。
これが、現場責任者のポストでは優秀だったのに、昇格した主任のポストでは「無能な人」という烙印が押されてしまう原因です。
ごく稀に、主任に昇格しても優れた仕事をする人もいますが、残念ながら次の課長ポストでは「無能な人」となる可能性が高くなります。
その結果、各階層の管理職ポストには「無能な人」ばかりが滞留することになるという『ピーターの法則』は、
1969年に刊行されるや否や世界中でベストセラーになりました。
そして悲しいことに、半世紀をすぎた今でも、この法則は会社の至る所で観測されます。
日々実務に汗を流すことで精一杯のプレイング・マネージャー。
上から言われたことを、そのまま部下に伝えるだけの管理職。
目先の決算数字の遣り繰りに余念のない役員。
あなたの会社では、それぞれのポストに必要な能力要件が具体的に明示されていますか。
そして、その基準をキチンと満たした人が昇格するシステムになっていますか。
もしかしたら、昇格のメカニズム自体が謎のベールに包まれた状態になっていませんか。
能力によらない昇進が起こる最大の原因として、ピーターは「上司の引き」をあげています。
そして、上司から引いてもらうコツを五つあげているのですが、最初は「パトロンを見つけよ」です。
そして、四番目は「見切りは早めに!」で、五番目は「複数のパトロンを持て!」です。
まさに、マキャヴェリズム。
ピーターの慧眼には驚かされるばかりです。
後を絶たない企業不祥事の中には、本来昇格してはいけない不適任者が、
パトロンの引きだけでトップにまで登り詰めてしまったとしか解釈のしようがないケースが多々あります。
こうなると、不透明な昇格人事制度というのは諸悪の根源。
会社を危うくする要素にもなりかねません。
では、一体どうしたらよいのでしょうか。
私の提案は三つあります。
一つ目は、昇格選考自体をアウトソーシングすることです。
部外者の人間の方が、各ポストにおける能力要件を客観的な基準で明確化しやすいし、
その達成度合いについても具体的な数値で表すことができるはずです。
最近では、外部のアセスメントを取り入れる企業も随分増えてきました。
さらにはトップ人事でさえ、外部の有識者を交えた指名委員会で決定している大企業もあります。
二つ目は、部下による投票で上司を決める方法です。
実際に、全国に100店以上を展開するメガネ専門店では、総選挙を行いました。
社員全員の投票により、立候補者14名のうちから5名のエリアマネージャーが選ばれたそうです。
これ以上の透明化はありません。
しかも、選んだ側は結果に対して納得性があるし、
選ばれる側は部下がどんなことを期待しているかを意識するようになり、まさに相乗効果が期待できます。
少なくとも、数人の上級管理職によって密室で昇格判定が行われるよりはよほどマトモです。
最後は、将来的に最も実現の可能性が高い案です。
それは、昇格だけでなく人事考課や人事異動も含めた、すべての人事政策をAIに委ねてしまうことです。
これもすでに、一部実施している会社があります。
誤った昇格人事が行われる可能性は圧倒的に低くなります。
かつて山一證券の人事担当者は、自社の人事制度の長所を、
「えも言われぬ曖昧さ」と表現していたそうです。
謎のベールに包まれた人事制度というのは、
企業にとって間違いなくリスク要因であるということを、トップは今一度自覚するべきです。
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