株式会社ファイブスターズ アカデミー

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5☆s 講師ブログ

名前を捨てる

あなたがもし起業するとしたら、どんな社名をつけますか?
私なら考えに考え抜いて、最高にカッコいい名前をつけます。

シアトルの、小さなコーヒー豆の焙煎業者に過ぎなかったスターバックスが、大きな飛躍のチャンスを手に入れたのは1984年のこと。

当時アメリカ西海岸で圧倒的な知名度をもつ、同業の「ピーツ」社を買収する機会を得たのです。

長い歴史と高いブランドイメージを持ち、焙煎業者たちの憧れの的だったピーツ社。

その会社を買収した経営陣は、同時に非常に勇気のある決断をしました。
なんと社名を、「スターバックス」から「ピーツ」に変えてしまったのです。

その時売りに出された「スターバックス」という名前を購入したのが、
この会社からスピンオフする形でカフェを経営していた現在のCEO、ハワード・シュルツでした。

彼もまた、自分が創業した「イル・ジョルナ-レ」というブランドを惜しげもなく捨て去ったのでした。
シュルツが会社名も店舗名もすべて「スターバックス」に統一したところから、このカフェの成功物語が始まります。

誰でも創業時の社名や商品名には強い思い入れがあるもの。
でも、会社のさらなる発展のためには、よりブランド力の強い名前の方を選択するべきでしょう。

ウィスキーの世界でも、その勇気ある決断をした男がいました。

ジェームズ・ブキャナンが、グラスゴーの船会社の事務員として働き出したのは14才の時。

給料が安く退屈な仕事に飽き飽きしていた少年は、いつの日かロンドンで商売することを夢見ます。

それから16年後の1879年、ついにそれは現実のものとなりました。
ウィスキーのブレンダーとして、ジェームズ・ブキャナン社を興したのです。

当時のヴィクトリア朝のイギリスでは、癖の強いモルト・ウィスキーというのはごく一部のロンドンっ子たちの嗜好品に過ぎませんでした。
そこでブキャナンは、初心者や若者でも抵抗なく飲める、口当たりの良いブレンデッド・ウィスキーを模索します。

5年の歳月を費やして完成した作品は、『ダルウィニー』、『グレンダラン』、『クライヌリッシュ』をキーモルトに、
『コンバルモア』や『アバフェルディ』など35種類のモルトとグレーンウィスキーをブレンドした逸品でした。

もともと穏やかな味わいのモルトばかりですので、その飲みやすさは格別。
自分の名前を冠して『ブキャナンズ・ブレンド』と命名したことからも、並々ならぬ自信のほどが窺えます。

それに加えて、デザインが素晴らしかったのです。

真っ黒なボトルに映える、真っ白なラベル。

このお洒落なボトルは酒屋の陳列棚ではなく、ホテルのバーやミュージックホールに置かれることを狙ってデザインされたものです。
やがて、ハウス・オブ・コモンズ(英国下院議院)の指定銘柄に選定されると、その知名度は一気に高まります。

ところが、ひとつだけ困ったことが起きました。

人々はこの美味しくてカッコいいウィスキーを、正式名称の『ブキャナンズ・ブレンド』ではなく、『ブラック&ホワイト』という愛称の方で覚えてしまったのです。

でもブキャナンは、これをチャンスと捉えます。

発売から20年後の1904年、なんと自分の名前の入ったブランド名を惜しげもなく捨てて、『ブラック&ホワイト』を正式名称にしてしまったのです。

それだけではありません。

ラベルを一新し、二匹の小犬を登場させました。

黒のスコティッシュ・テリアと、白のウェストハイランド・ホワイト・テリアは、それぞれスコットランドを代表する小犬です。

何でも、動物好きのブキャナンが、たまたま出かけたドッグショーで優勝したのがこの二匹だったとか。

これが決定打となります。

ロンドンのみならず、世界中のバーでこの愛くるしい黒と白の二匹の小犬を見かけるようになるまで、それほど多くの時間はかかりませんでした。

その功績が認められ、ブキャナンはウーラヴィントン卿という貴族に叙せられます。

ここにも、もう一つの成功物語があったわけです。

ビジネスにおける重要なマーケティング戦略のひとつに、ブランドをどう確立するかというテーマがあります。

ジェームズ・ブキャナンも旧スターバックスの経営陣も、そしてハワード・シュルツもまた
創業時の名前をあっさり捨て去り、よりマーケットに浸透しているブランド名を選びました。

社名や商品名にどんなに強い思い入れがあろうとも、
それを親しみの持てるブランドとして受け入れるかどうかは、そもそもユーザー・サイドが決めること。

世の中を見渡すと、いまだに供給サイドの論理でビジネスを展開している例はたくさんあります。

ところで、発売当初『ブラック&ホワイト』の愛称を広く知らしめることができたのは、
ボトルのデザインもさることながら、その秀逸なコピーのお陰でもありました。

“Day is grey the night is Black & White”

どうです?

あなたもグレーな一日の終わりに、この優しい口当たりのウィスキーで癒されてみませんか。
勇気ある決断をしたビジネスマンたちに思いを馳せながら・・・。

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