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5☆s 講師ブログ

競争は悪か?

企業戦士、営業拠点、販売戦略、シェア奪回、マーケット制圧・・・。
私たちが普段何気なく使っているビジネス用語の中には、戦争用語が沢山含まれています。

そう考えると、ビジネスは“疑似戦争”と言えるのかもしれません。

やっぱり「勝つか負けるか」しかないのでしょうか。

ビジネスが競争であることを、改めて思い知らされた実験があります。

2015年10月の『チンパンジー・マネージャー』というブログで、「最後通牒ゲーム」について書きました。

復習の意味で、「最後通牒ゲーム」の内容をもう一度説明しますね。

これは、AとBの二人で現金を分け合うというゲームです。

今、胴元からAに1,000円が渡されたとしましょう。

Aがそれを独り占めすることは許されず、そのうちのいくらかをBに分け与えなければいけません。
単位は100円刻みとします。

Bにいくら渡してもいいのですが、Bがその分け前の比率の提案に満足できずに拒否してしまうと、
AもBもお金を受け取ることはできません。

つまり、Bがその比率の提案を承諾したときのみ、両方がお金を受け取ることが出来るのです。
もちろん、事前に相談することはできません。

この時のブログで触れたのはBの行動、すなわち分け前の提案を受ける側の行動についてでした。
具体的に言うと、何:何ならOKするかということです。

5:5だったら文句なくOKです。
6:4、つまりBの取り分が4割までならほぼ全員受け入れるそうです。

さて、今回紹介するのはAの方、すなわちお金の分け前比率を提案する側に関する研究です。

2003年、エアラン・ケイ、クリスティアン・ホイーラーらが調べたのは、
Aが何:何かの比率を決める際、その意思決定にどんな要因が影響を与えているかということです。

まず、このゲームを行う前に、ちょっとした作業をやってもらいます。

被験者には、あるシートが配られました。

シートの左側には様々な写真、右側には語群が掲載されています。

作業というのは、写真と一致する言葉を線で結ぶという実に単純なものです。

この時、作業するグループを二つに分けます。

最初のグループには、「凧」、「クジラ」、「七面鳥」などといった写真が載っています。

一方、もう一つのグループには、「ペン」、「書類鞄」といったビジネスに関係するものばかり載っています。

この、一見バカバカしい作業が終わったら、いよいよ「最後通牒ゲーム」の始まりです。
すると、両グループの間で、提案比率に顕著な違いが出たのです。

最初のグループ、すなわちビジネスと無関係な写真を見せられたグループでは、
5:5の割合で提案した人は93%いました。

ほぼ全員が、自分の損得を考えずに「平和的」な提案をしたわけです。

ところがもう一方のグループ、すなわちビジネス関連の写真に晒されたグループの場合は、
5:5で提案した人は33%しかいませんでした。

これはどういうことでしょう?

「ビジネス」関係のものを目にしただけで、私たちの潜在意識の中に
「勝ち負け」といった競争意識が生まれてしまったと考えられます。
それがいいとか悪いとかではなく、人間とはそういうものなのです。

そもそも「競争」とは、決して悪い事ではありません。

競争こそが経済を発展させ、結果として私たちの生活に豊かさをもたらしてきたのです。

今考えるべきことは、競争のない社会を作ることではありません。

競争原理を上手に利用して、社会全体を豊かにすることです。

そのためには、絶対必要なしくみがあります。

競争の結果として多大な富を手にした勝者が、その富を独り占めするのではなく、
その富の一定割合が敗者に還元されるようなシステムを作ることです。

これを経済学用語で「所得の再分配」と言い、一般には累進課税制度や社会保障制度のことを指します。

では、この「所得の再分配」は、うまく機能しているのでしょうか?

今、アメリカを始めとする多くの国で起こっていることは、極端な富の偏在です。

第二次世界大戦以降、世界はその反省から、「競争」のエネルギーを戦争ではなくビジネスの方へと向かわせました。

その結果、世界経済は目覚ましい発展を遂げ、人々の暮らしは豊かになりました。
ここまでは、再分配はある程度上手く機能していたと言ってよいでしょう。

しかし、ここ10数年に限って言えば、成長エンジンの原動力は、
“Winner takes all”という富への欲望だったのではないかと思うのです。

言わば最後通牒ゲームで、10:0の提案を相手に無理やりOKさせているようなものです。

その結果世界は、人類史上経験したことのない極端な格差社会に突入してしまいました。

「所得の再分配」は、明らかに機能不全に陥っているのです。

ジョセフ・スティグリッツは、こう言っています。

「経済理論が示唆しているのは、グローバリゼーションによって皆が勝者になるということではなく、
経済全体としてはプラスになり、したがって勝者は敗者の損失を補填してもなお
余りある利益を手にすることができる、ということだ」

大切なのは、競争をなくすことではありません。

「富の再分配」を機能させることです。

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