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5☆s 講師ブログ

誇大妄想狂

周りから“誇大妄想狂”と陰口を叩かれたピーター・マッキーは、1890年自ら興したウィスキー・メーカーの社名に、
かつて生家の隣にあった酒場の名前をつけてしまいます。

その名は『ホワイト・ホース』。

宿屋も兼ねていた『ホワイト・ホース・セラー(白馬亭)』の創業は1742年と言いますから、
この時から遡ること150年前。

なぜ、そんな大昔の店の名前をつけたのでしょう。

それは、スコットランド人にとって、『白馬亭』は自由と独立の象徴でもあったからです。

『父を超える』(2016年10月)の回で、1745年のジャコバイトの反乱について触れました。

このジャコバイト軍がエジンバラに進攻した際、定宿にしたのがこの『白馬亭』でした。

当時、スコットランドの自由と独立のために戦うジャコバイトを讃えるため、
大勢の市民がこの酒場の前に集まり、辺りは興奮の坩堝と化したそうです。

黒をバックに、白馬が浮かび上がるラベルのイラストは、『白馬亭』に掲げられていた看板の図柄そのものです。

スコットランド人の愛国心をくすぐるというピーターの狙いは見事に的中し、
ブレンデッド・ウィスキー『ホワイト・ホース』は瞬く間に人々の支持を集めます。

しかし、これだけのことなら“誇大妄想狂”というより、「アイデアマン」という表現の方が正しいでしょう。

この酒の本当の魅力は、その絶妙な味わいにあるのですが、これを生み出すまでのこだわりが半端ではない。

若き日のピーターが修行したのは、当時叔父が所有していたラガヴーリン蒸留所。

なんと『ホワイト・ホース』のキーモルトは、あのきわめて個性の強い名酒『ラガヴーリン』なのです。

頑固な職人たちから一つでも多くのものを吸収しようと、
不眠不休で働く彼につけられたあだ名は、「レストレス(不休の)・ピーター」。

その甲斐あって、このアイラの暴れ馬を華やかでフルーティな味わいの『クレイゲラヒ』と、
この上なくまろやかな口当たりの『グレンエルギン』で上手に包み込み、なんとも絶妙なバランスに仕上げたのでした。

この味に魅了された人々の中には、日本の黒澤明もいます。

このクレイゲラヒ蒸留所こそ、誇大妄想の賜物です。

なんと、『ホワイト・ホース』のブレンド用としてピーターがわざわざ建設したものなのです。

元々ブレンドが目的ですので、シングルモルトとして出回るのは生産量全体のわずか1%。

蒸留所の入口に白馬の看板が掲げられていることからも、
ピーターの異常なまでの『ホワイト・ホース』への思い入れが窺えます。

1908年に国際大会でグランプリを獲得すると、その年の王室御用達に選ばれます。

誇大妄想が馬車馬の如く駆け出し、ついに白馬は成功への階段を駆け上がってしまったというわけです。

しかし、ヴィクトリア朝のロンドンっ子たちは、スコットランドの片田舎の地酒などには見向きもしません。

ジンとラム、そしてブランデーの天下だったこの巨大マーケットに、スコッチの美味しさを知らしめたのは、
『ジョニー・ウォーカー』のジョン・ウォーカー、『ブラック&ホワイト』のジェームズ・ブキャナン、
『デュワーズ』のトーマス・デュワー、『ヘイグ』のジョン・ヘイグ、そして我らが“誇大妄想狂”ピーター・マッキー。

後に「ビッグ・ファイブ」と呼ばれた5人の男たちでした。

とりわけ『ホワイト・ホース』は、スコッチで初めて、コルク栓をスクリューキャップに変えたことで、
売上を飛躍的に伸ばします。

やがてスコッチの普及に多大な貢献をしたとして、「ナイト」の称号を贈られる頃には、
ピーターの評価は「3分の1は天才、3分の1は誇大妄想狂、そして残りの3分の1はエキセントリック」
という、ちょっぴり好意的ものに変わっていました。

しかし、後にホワイト・ホース社の社是の一つになった
“Nothing is impossible”(不可能なことはない)が口癖だったピーターにも、
成し遂げることのできなかったことがひとつだけあります。

栄光に浴した1908年、今や幻の酒となった『モルトミル』の蒸留所を建設するのですが、
これにはある陰謀が隠されていました。

前年まで『ラフロイグ』の販売権を持っていたピーターは、
『ラフロイグ』を潰すためにそっくりのモルトを造ろうとしたのです。

全く同じマッシュタン(糖化槽)、全く同じウォッシュバック(発酵槽)、
そしてポットスチル(蒸留釜)までそっくりのものを造り上げ、さらには職人まで引き抜くという念の入れよう。

しかし、なんとも不思議な話ですが、出来上がったウィスキーは『ラフロイグ』とは似ても似つかぬ代物でした。

『モルトミル』は、すでに製造中止となったウィスキーですので、一体どんな味わいだったのか興味をそそられますよね。

天才にして稀代の“誇大妄想狂”をもってしても、奥深いウィスキー造りの謎を解くことはできませんでした。

こんな話を聞くと、この琥珀色の液体が、ますます不思議な魅力に満ちたものに見えてきます。

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