株式会社ファイブスターズ アカデミー
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黒井千次の『時間』を最後に、小説は読まないという主義を貫いて、もう40年近くになりますが、
今回は作家とウィスキーの関係について考えてみたいと思います。
なぜそんな気になったかと言うと、三鍋昌春のこんな文章を目にしたからです。
「ウィスキーとは基本的に舞台装置で飲む酒ではない。
深いですね。
作家の酒癖については、矢島裕紀彦の著書に詳しく紹介されています。
井伏鱒二はかなりのウィスキー好きでした。
釣り好きな井伏は、釣り竿一本担いでどこにでも旅に出かけました。
「部屋は一つしか空いていませんが、それは東京から井伏先生という方がおいでになるから、
よろしく頼むとある人からお電話がありましたので、すみませんけど・・・」
すると彼は、「はあ」と返事をしただけで、また5時間かけて東京に帰ってしまいます。
その井伏を慕っていた太宰治もまた、ウィスキーが好きでした。
ある日、銀座で宝石や古美術を商っている若主人の招きで、友人の劇作家、伊馬春部とともに熱海に向かいます。
なんとか持たせようとした伊馬が、横浜で一杯、藤沢で一杯と予め駅を決めて飲むことを提案します。
ところが、有楽町を過ぎたとたん、我慢出来ない太宰が「飲み始めよう」と言い出す始末。
そこで、気を紛らわせるため二人は言葉遊びに興じます。
あらゆる名詞を「悲劇名詞」と「喜劇名詞」に分類するという遊びです。
しかし、この遊びに夢中になってしまった太宰は、藤沢を過ぎたことに気がつきません。
あまりに大人気ないその様子に、「太宰は喜劇」というレッテルが貼られますが、
本人は愉快そうに聞いていたそうです。
そんな太宰ですが、『酒ぎらい』というエッセイを残しています。
「家に酒を置くと気がかりで、そんなに呑みたくもないのに、
ただ、台所から酒を追放したい気持ちから、がぶがぶ呑んで、呑みほしてしまうばかり」
酒に纏わる失敗談が、名作を生むきっかけになることもあります。
ところが、二人は居酒屋や遊郭に繰り出してドンチャン騒ぎ。
太宰は、落語の『居残り左平次』さながら、檀を人質に残して金策のために帰京しますが、待てど暮らせど音沙汰がありません。
今度は『付き馬』そのままに、檀は借金取りを伴って太宰を探しに東京へ。
ようやく見つけた太宰は、なんと井伏の家で悠々と将棋を指しているではありませんか。
「待つ身がつらいかね。待たせる身がつらいかね」
これが後の『走れメロス』のヒントになりました。
太宰と酒場と言えば、とても有名な写真があります。
この写真が撮られたのは昭和21年11月。
すると傍らで、「おい、織田作ばっかり撮ってないで、俺も撮れよ」と、しつこく絡んでくるタチの悪い酔っ払いがいました。
かねてから太宰にも関心があった林ですが、この時フラッシュバルブの残りは僅か一本。
こうして林は、絶対に失敗できない一枚を撮り終えたのでした。
ちなみに織田の方は、ほとんど酒が飲めなかったそうです。
ところで、『ルパン』と言えば、もう一人有名な作家がいましたよね。
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