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5☆s 講師ブログ

ツイッター化する社会

最近、テレビ画面の一部に、視聴者のツイッターが流れる番組をよく目にします。

どんなことをつぶやいているのか見ていると、ほとんどが感情的な内容でしっかりした論理を展開しているものは皆無です。

そもそも140字という制約がある上、テレビに採用されるとなればせいぜい一行程度の短いもの。
ですので、キチンとしたロジックを展開することは不可能です。

しかし、中には感情論までにも至らず、まるで脊髄反射のような薄っぺらいものさえあります。

ですので、ツイッターがきっかけで深く考えさせられたり、自分の意見を見直すなどということは絶対にありません。

見ていて、「ああ、この人はこんな意見なんだ」と解釈すれば、それで終わりです。

書く方は勝手な感想を吐き出し、見る方もそれを見た時点で終了となります。

まさに発言を「見る」です。

「読む」と言わないのは、「読む」に値しないからです。
私は、ツイッターほど、「思考」とは縁遠い意見交換の場はないだろうと思っています。
ところが最近は、世の中全体がどんどんツイッター化し、あらゆる局面で思考の欠落現象が起こっています。

その最たるものがトランプです。
彼の発言には、思考の痕跡が全く見られません。

その瞬間に頭に閃いた悪者をやり玉に挙げて、口汚く罵る。

大衆は、彼の発言が正しいかどうかなどはおかまいなしに、ただ歯切れが良いというだけで拍手を送る。

拍手喝采をすることで、日頃のストレスが発散される。

この繰り返しが延々と続き、ついにトランプは大統領候補にまで登り詰めました。

大衆受けする扇情的な言葉を並べることで、人々を熱狂の渦に巻き込むやり方は、
かつてのあの独裁者と同じではありませんか。

ヨーロッパの国々も同様です。

「我々の仕事が減ったのは、移民が仕事を奪ったせいだ」という単純明快な主張が大衆の支持を得て、
どこの国でも極右勢力が急激に支持を集めています。

扇動された大衆の前にあっては、「思考」とか「ロジック」は無力です。

もし、ちゃんと理性が働いていたなら、デメリットしかないEUからの離脱に賛成などするはずがないではありませんか。
ジョージ・ソロスの言う通り、今後マーケット参加者は英国選挙民の過ちを徹底的に突いてくるでしょう。
そしてそこには、さらなる貧困が待ち受けているはずです。

このような理性を失った感情論が、一見ロジック風の衣を纏った愛国主義と結びつけば、
第二次世界大戦直前とよく似た状況になるのは容易に想像できます。
ツイッターに象徴される「思考停止」傾向が、全世界に蔓延しているように見えるのは私だけでしょうか。

ところが日本では、ツイッターどころかマスメディアが「思考停止」の推進役を担ってしまいました。

舛添東京都知事の辞任問題です。

メディアがこぞって都知事の“せこさ”という人間性の問題にスポットを当てて、
家族旅行やチャイナ服の話題を連日面白おかしく報道してくれたおかげで、日本列島あげて大盛り上がり。
最終的に都知事が辞任を発表したことで、多くの人が憂さを晴らしました。

しかし、これでよかったのでしょうか。

この問題の本質は、本当に都知事の“せこさ”だったのでしょうか。

そうではありません。

政治資金規正法が、使途に何の制約もない“ザル法”だということが問題の本質です。

過去には、愛人の洋服代はおろか、愛人の経営するクラブへの支払いに政治資金を充てていた政治家もいました。

もちろんこれらは、舛添都知事同様、違法でも何でもありません。

政治資金の使い道に唯一制約があるのは、小沢一郎の問題をきっかけに
不動産を買うのはやめましょうとなった程度です。
たしかに、サラリーマンが一生懸けて手に入れるマイホームまで、
いとも簡単に政治資金で手に入れられたらたまりませんよね。

なぜこんなザル法ができたのかというと、政治資金を自由に使いたい政治家が立法した法律だからです。

これに関して、独立総合研究所所長の青山繁晴が口にした解説は秀逸でした。

曰く「泥棒を取り締まる法律を泥棒が作った」

実にわかりやすい説明ですよね。

泥棒が、自らが犯罪者になってしまうような法律を作るはずがありません。
法律を作る人たちは、自分たちが法の網の目から逃れることができるように、いくらでも細工することができるのです。

ここに立法制度の難しさがあります。

すなわち、立法権を持つ者が、利害関係者張本人であるということです。

この騒動の最中、それを思い知らされる出来事がありました。

富山市議会で、議員報酬を10万円アップさせて、月額70万円にしようという条例改正がなされました。
増額の理由は、現状の月60万円では「生活できないから」だそうです。

この理由に納得した富山市民がどれくらいいるのか知りませんが、
条例というのは地方公共団体が定めることのできる自主法です。
これこそ、議員が自分に有利なように法律を改正した典型例と言えるでしょう。

今年の3月に可決された名古屋市議の報酬に関する条例の場合は、
年額800万円を一気に1455万円まで引き上げるというものでした。
ちなみに、名古屋市と似たような規模のパリ市の議員報酬は、たったの600万円だそうです。

話題の東京都はどうでしょう?

都議の報酬はボーナス込みで年額約1600万円。

もちろん、それに加えて政務活動費が720万円支給されます。

政務活動費というのは、例の号泣会見で有名になった兵庫県議が、小遣い代わりにしていたあれです。

ところで、この富山市の件で私がもっとも驚いたのは、市議による暴行事件の方です。

自民党市会議員のドンなる人物が、自民会派控室で取材していた女性新聞記者を押し倒して、
彼女が議員に対して行っていたアンケートの回答用紙を奪い取るという暴挙に出たのです。

当然記者は、暴行と窃盗の疑いで警察に被害届を出しました。
そのときの釈明記者会見で、ドンはこう言い放ったのです。

「取材は不法である」

不法とは、いわゆる「違法行為」を指します。

どうやら富山市では、控室でドンの許可なく取材するのは、法律で禁じられているようです。
いつそんな法律が成立したのでしょう?
それとも、明文化はされていなくても、「俺が法律だ!」と言うことなのでしょうか?

話を舛添都知事に戻しましょう。

舛添都知事がなかなか辞任しなかったことについて、彼の人間性に原因を求めた評論家もいましたが、
それは大間違いです。

なぜあそこまで頑張ったのか、その理由は明白です。

「自分はましな方だ」と思っていたからです。

政治資金の問題を過去に徹底的に研究していたからこそ、「この程度の金額で辞職に追い込まれるとしたら、
日本の政治家の大半は失職するはずだ」という読みがあったのです。

それを象徴していたのが、舛添都知事が辞職を決めた日の都議会議員へのテレビ・インタビューです。

不信任案はすべての会派が提出したり、あるいはその意向を示したはずなのに、
インタビューに答えていたのはほとんど共産党の議員でした。

なぜでしょう?

共産党は、政党交付金の受け取りを拒否しています。
つまり、政治資金規正法の問題に関しては一点の曇りもないのです。

だから、堂々とテレビに出ることができるのです。
逆の見方をすると、共産党以外の議員は、多かれ少なかれスネに傷持つ人がいるのかもしれません。

あるネットメディアによれば、都議会というのは利権の巣だそうです。

築地市場の移転にも、とんでもなく巨額の利権が絡んでいるのだそうです。
こちらの方が、正真正銘の「政治とカネの問題」です。

なぜマスメディアは、政治資金規正法や利権の問題には目を瞑り、
舛添都知事の“せこさ”にだけ徹底してスポットライトを当てたのでしょうか。

それは、その方が視聴者が喜ぶからです。

視聴率がとれるからです。
新聞が売れるからです。

マスメディアこそ、「ポピュリズム」そのものだったのです。

思考を停止していたのはアメリカでもヨーロッパでもなく、日本の国民でした。
日本のマスメディアのレベルが低い理由は、日本国民のレベルが低いからです。

ある意味、トランプの極論に拍手している支持者たちよりも、たちが悪いと言えましょう。

なぜなら、少なくとも彼らは、「政治を変えよう」と思っているからです。

日本では、こんな大問題が起きても、政治資金規正法を変えようという声はほとんど聞かれません。

政治家にとっては楽勝の国です。

ともあれ、お祭りは終わりました。

マスメディアは、次の生け贄を探す必要に迫られています。
こんな非生産的なショーが、一体いつまで繰り返されるのでしょうか。

ある報道番組のキャスターが、実に奇妙な発言をしていました。

「政治資金規正法がザル法であるという問題は、このままうやむやにされてしまうのでしょうか」

うやむやにするのは一体誰でしょう?

それは番組制作者です。

キャスター自身です。

家族旅行のホテル代やチャイナ服代はうやむやにしなかったくせに、
もっと重要な問題についてはどうやら闇に葬るつもりのようです。

ただ光明もあります。

最近、ラジオやBSで質の高い報道番組が出現していることです。

せめてこれらの番組は、ツイッター化することなく、政治家として本来あるべき姿を、
真剣に論議する場であってほしいと願っています。

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