株式会社ファイブスターズ アカデミー
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「大人の武者修行」とは、いわば社会人のインターンシップ制度です。
受講対象者は中小企業の次期経営者や管理職などで、育成訓練体制がしっかりしている企業に2週間出向き、
ただし、修行する企業はどこでもいいというわけではありません。
先日テレビで、このインターンシップに参加した、ある古紙問屋の札幌営業所長の事例が紹介されていました。
この営業所が抱えている悩みは、結構深刻でした。
なんと、他の納入業者の数倍も不純物が混じっているのだそうです。
目の前で、テレビカメラが回っているにも関わらずです。
所長も人がいいのか、強くたしなめることはしません。
しかし、この状態が続けば、取引を打ち切られても文句は言えないでしょう。
そこで社長は、この所長を「大人の武者修行」に参加させようと考えました。
修行先は、同じ北海道内にある十勝バスという会社です。
なぜそんなことができるのでしょう?
父親の三代目社長が会社を畳むと聞いて、息子の野村文吾はエリート・サラリーマンの地位を投げ打ち、
渦中のバス会社に入社します。
70年もの長きに渡り帯広市民の足として親しまれた路線バスも、マイカーブームの到来とともに利用客は減少に転じ、人口減少と相俟って最盛期の4割にまで落ち込んでいました。
しかし、野村が何より驚いたのはマーケットの問題ではなく、
従業員のやる気のなさでした。
停留所で待っていたのにバスに素通りされたという苦情を現場責任者に伝えると、
「目立たないところに立っていた客が悪い」という答えが返ってきます。
扉が閉まらないうちに急発進されて危険だったという苦情には
「それでケガした客はいたのか?」という逆質問。
なんとか倒産だけは避けたい野村のイライラは日増しに募り、
つい頭ごなしに怒鳴ってしまうこともしばしば。
ある時、地元の青年会議所の酒席でいつものように愚痴を吐いていると、先輩のメンバーから一喝されます。
「お前は、一緒に働いている人をもっと愛せよ!」
先輩が気になっていたのは、野村が会社のことを話すとき、
「自分たち」と言ったことが一度もないことでした。
目が覚める思いをした野村は、翌日から変わります。
まず、朝礼で今までの自分の姿勢を謝罪します。
その直後の会議での事でした。
ある幹部が、利用客が増えないことに関して、責任を転嫁するような報告を行いました。
いつもならカッとなって怒鳴り散らすところをぐっとこらえて、
「どうしたらいいと思いますか?」とその幹部に意見を求めます。
「あれっ?」と思ったのは、その時です。
いつもは「そんなことは無理」と答える幹部が、
なぜかその日は言い訳をしなかったのです。
そして一週間後の会議で、もっと大きな変化が現れます。
今まで、会議で自分から発言したことなど一度もなかった幹部が、手を挙げてある提案をしたのです。
あまりの嬉しさに、会議が終わるとすぐ彼の元に駆け寄り感謝の言葉を述べます。
「素晴らしいアイデアをありがとう!いつから考えていたんだい?」
「半年前からです」
「どうして早く言ってくれなかったんだい?」
「言っても、社長から怒鳴られるだけだと思っていたので・・・」
なんと、彼らのやる気を削いでいたのは他ならぬ社長自身だったのです。
それからの野村は、暇を見つけては従業員ひとり一人に歩み寄り、
彼らとキチンと目を合わせて話を聞くようになりました。
これって、『最弱と最強の分岐点』(2016年6月)でマイケル艦長が取り組んだ、
「MBWA(マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド)」ですよね。
少しだけ光が見え始めたような気がしたのですが、待ち構えていたのは更なる地獄でした。
原油高です。
もはやこれまでと、誰もが思ったその時に、意外なことが起こります。
それは10年前、彼らがにべもなく一蹴した社長のアイデアでした。
それを今度は、彼ら自身が言い出したのです。
バス路線と時刻表を記したビラを各家庭に配布しますが、もちろん営業などやったことのない人達です。
ピンポンを鳴らす勇気もなく、ビラを郵便受けに放り込むだけでもドキドキでした。
それでも一生懸命頑張ります。
数日後、乗務を終えて事務所に戻ってきた運転手が、首を傾げながらぽつりとつぶやきました。
「何かあったのか?」
彼が言うには、普段は無人で素通りしている停留所に、わずかだが人が集まっているというのです。
部下からは、通院や買い物などの目的地別マップの作成など、次から次と新しいアイデアが提案され、
徐々にではありますが利用客は増え始めました。
そしてついに、十勝バスは増収に転じたのです。
艱難辛苦を舐めたこの四代目社長は、大人の武者修行に来た古紙問屋の営業所長に意外な言葉を投げかけます。
「よい習慣を身につけさせることが大事だ」
十勝バスでは路線乗務を終えた運転手は、雪の多い場所など
運転に気をつけなければならない情報を漏れなく内勤に伝えて、次の乗務員への引き継ぎをします。
それがルーティンとなっているのです。
もちろんビラ配りもルーティンです。
勇気が要るとか、そんなことは関係ないのです。
ともすれば私たちは、ビジネスの基本動作ができていない部下のことを、
「ルーズだ」とか「やる気がない」とか、人間性の問題として捉えがちです。
しかし、それは間違いです。
修行を終えた古紙問屋の営業所長は、職場に戻るや否やすぐに行動を開始します。
まず、理想とする作業のあり方を言葉にして、毎日の朝礼時に全員で唱和します。
そして作業の時には、所長自らが率先して丁寧な仕事ぶりを見せ、部下にきめ細かな指示を出します。
そんなある日、納入先の製紙会社から一本の電話がかかってきます。
その内容は驚くべきものでした。
なんと、不純物の混入率が以前の1/3にまで減ったというのです。
やはり、部下の人間性の問題ではありませんでした。
嬉しさをひとり胸にしまい込み、部下たちを飲みに誘った所長は、
酒の席で満を持して彼らにそのデータを見せます。
ところが、彼らの反応は全く予期しないものでした。
「まだ、他社より高いじゃないか!」
私たちは、とんでもない勘違いをしていたようです。
行動を変えることで、意識が変わるのです。
マネジメントを考えるとき、部下の意識を変えるのは大変なことですが、行動を変えるのは比較的簡単です。
習慣化、つまりルーティン化するまで継続することが大切です。
それさえできれば、あとは部下の心の中にある内なる歯車が回り始めます。
部下のルーズさとかやる気のなさを嘆く前に、あなたの職場ではどんな「行動の習慣化」ができそうか、
一度じっくり考えてみませんか。
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