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5☆s 講師ブログ

最弱と最強の分岐点

ある大企業の社長の訓示です。

「予測不可能な時代だからこそ、私が目指しているのは最強の組織。すなわち軍隊だ!」

この社長の頭の中には、軍隊とは完璧なトップダウン型の組織で、
上官の命令一下、隊員が迅速に行動するというイメージが出来上がっているのでしょう。

私もそう思っていました。
ところが、部下が上官の命令に唯々諾々と従うだけという軍隊は、“最弱”なのだそうです。

『アメリカ海軍に学ぶ最強組織のつくり方』の著者マイケル・アブラショフは、
海軍で「最もダメな軍艦」という烙印を押された誘導ミサイル駆逐艦ペンフォルドを、
わずか数ヶ月のうちに「アメリカ艦隊最高の艦」と言われるまでの地位に引き上げた奇跡の艦長です。

一体どうやったら、そんなことができるのでしょうか?

彼の物語は、前任艦長の退任式から始まります。

権威を振りかざし、有無を言わせぬ命令で組織を動かしていた前任者の、
その後ろ姿を見つめる300人の乗組員たちの表情には、惜別の情などは微塵も感じられませんでした。

それどころか、せいせいしたという顔つきの者さえいるではありませんか。

マイケルは思います。

自分が艦を去るとき、部下はどんな気持ちで私を見送るのだろうかと。
これが全ての始まりでした。

軍隊では、隊員たちは時に自らの命を危険に晒さなければなりません。

ところが、彼らが命を懸けるのは、それが命令だからという訳ではないのです。
上官を信頼しているからです。

何事も、上司への信頼が大前提なのです。

それがないと、どんな組織であろうと部下は全力を尽くしません。

では、どうやって部下との信頼関係を築いたらよいのでしょう?

そこでマイケルが思いついたのは、部下の身になって考えてみることでした。

まず、全ての乗組員と面接します。

子供の名前に至るまで詳細情報を聞き出した後、自分の艦の好きなところと好きでないところ、
変えるとしたらどこを変えたらよいかについて質問します。

そして最後に、海軍での目標と将来の目標を聞いたのです。

この面接を行ったことで、マイケルの中で大きな変化が起きました。

部下の位置づけが変わったのです。
もはや部下は、命令を怒鳴りつけるだけの存在ではなくなりました。
部下のことをよく知ることで、部下に対する“尊敬”の念が湧いてきたのです。

マイケルは、彼らの「応援団長」になろうと決めます。

彼らが人生に目標を見出し、そこにたどり着くまでの進路を描くのを手助けしよう。
そして、そのことを上司としての最高の喜びにしよう、と心に決めたのです。

この面接で特に重要だったのは、三番目の質問です。

「変えるとしたらどこを変えたらよいか」
マイケルが徹底して部下に求めたのは改善提案でした。

何も考えずに、命令されることに慣れきっていた乗組員たちを、自らの頭で考え抜く人間に変えること、
とにかくそれを最優先課題として全力で取り組んだのです。

命令に盲従するだけの組織は最弱です。

個々人が、自発的に創意工夫をする組織こそが最強なのです。

乗組員から改善提案を出させるため、マイケルは暇さえあれば艦を歩き回りひとり一人にこう問いかけます。

「君がしている仕事に、もっとよいやり方はないか?」

現在の経営論で言うところの「MBWA」(マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド)です。

このとき大切なのは、仕事のゴールをはっきり示すことです。
ただし、そのやり方は部下に任せます。

この本の訳者であるトリンプの元会長、吉越浩一郎はこう記しています。

「トップダウンがいいか、ボトムアップがいいかという議論は無意味である。
ボトムアップでも、トップがボトム(現場)に取りに行かなければ正しい情報はアップされてこない」
なるほど、的を射てますよね。

ただ、これで上司と部下の完璧な信頼関係が出来上がった訳ではありません。

というのは、艦長の判断ですぐに採用できる提案ならば決断は簡単ですが、
さらに上官の承認が必要となるような場合、艦長がどう対処するか分からないからです。
もしかしたら、腰砕けになってしまうのではないかと部下は疑心暗鬼です。

まさにここが、信頼関係を築けるかどうかの分岐点です。

ある時、潜水艦を探知して回避するシミュレーション演習を行うことになりました。
マイケルは担当の士官と水測員を艦長室に呼び、新しいアイデアがないか自由に提案させます。

すると驚いたことに、彼らはそれまで誰も考えたことのないような、独創的な戦術を考え出したのです。
マイケルはすぐに、演習で試したいと上司である提督に提案しますが、予想通り反対されます。

この時彼は、ほとんど無礼と言えるほど激しく口論したのです。

しかし、抵抗の甲斐なく提案は却下され、第二次世界大戦以来用いている「いつもの戦法」で行くことになりました。

でも、この試みは決して無駄ではありませんでした。

この時使用していた無線は機密通信用のものですが、ボタンひとつで部下たちも聞くことができるようになっています。

実際、ほとんどの乗組員が耳を傾けていました。

艦長が自分たちの提案を通すため、一生懸命提督と戦ってくれている・・・。

部下にとって、もはや交渉の成否はあまり大きな問題ではなくなっていたのです。

交渉は失敗に終わりましたが、その翌日、マイケルは自分が真の指揮官なのだと実感しました。

なぜなら、部下のひとりがこう言ったのです。

「私たちはみんな、艦長が自分の次の昇進のことよりも、我々を大切にしてくれていると思っています」

どうです?

部下との信頼関係を築くのは、案外簡単なことだと思いませんか?

あなたが、上司に対して無闇に尻尾を振らなければいいだけの話です。

でも、誤解してはいけません。

ただ単に、上司に楯突けと言っているのではないのです。

マイケルは、上司を「顧客」と考えます。

だから、顧客が今何を望んでいるかを真剣に考えるのです。

ほとんどの場合、それは業績のアップです。

彼には、部下の提案が組織全体の業績アップに繋がるという強い確信があったので、
「上司のために上司と戦った」わけです。

組織全体への貢献というより大きな目標があるからこそ、自分の考課権を握っている相手とでも平気で戦えるのです。

小手先のご機嫌伺いは、顧客が真に望んでいるものではありません。

主人の機嫌を取るためだけに尻尾を振る犬と、主人のためを思って吠える犬とでは、本質的にまったく違うのです。

でも、私の過去のビジネス経験から言うと、部下に対して激しく吠える中間管理職ほど、
上司の前では矢鱈と尻尾を振り、“お座り”して“お手”までするものです。

最弱か最強かの分岐点は、中間管理職がどちらの態度を選択するかにあります。

すなわち、自分の次の昇進を最優先と考えるのか、それとも部下の応援団長になろうとするのか。

いや、それは態度というよりも、「生き方」とか「信念」という表現の方が適切かもしれません。

なぜなら、人生で最も大切にすべきものは何かという「哲学」に繋がるものだからです。

あなたはどちらを選択しますか?

そして、あなたが今の組織を去るとき、部下が一体どんな表情であなたを見送るのか、考えたことはありますか?

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