株式会社ファイブスターズ アカデミー
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課題が達成できなかった時や、プロジェクトが失敗に終わった時、必ず他人のせいにする人がいます。
他人とはすなわち、自分の上司だったり部下だったり、ときには状況そのものが犯人にされるケースもあります。
誰が見ても主たる原因はその人自身にあるような場合でも、
自分のことは棚に上げて他人への不満や不平を言い募ります。
これを「他責」といいます。
一方、これとは反対に自分のことを責めすぎる人もいます。
確かに責任の何割かは免れませんが、まるで自分がA級戦犯であるかのように反省し倒しています。
こちらは「自責」といいます。
ところが心理学では、「他責」「自責」という言葉ではなく、「他罰」「自罰」という言い方をします。
そしてさらにもうひとつ、「無罰」というものもあります。
「無罰」とは、フラストレーションの原因となっている出来事は偶発的に起きたもので、
回避することはできなかったという考えです。
残念ながらビジネスの世界では、この「無罰」という発想は皆無です。
本当にその人に責任があるかどうかは別として、
誰かが責任を取らないと組織としてのけじめがつかないからです。
いや正しくは、誰かが責任を「取る」ではなく、「取らされる」です。
アメリカの心理学者ローゼンツァイクが開発したP-Fスタディという手法は、
24枚の絵カードを使うことであなたが他罰か自罰かあるいは無罰か、のどの傾向にあるかを判定することができます。
ちょっとやってみましょう。
1枚目の絵には、二人の男が描かれています。
オフィスでデスクに座っている男と、かばんを持って立っている男です。
座っている男のフキダシには、こういうセリフが書いてあります。
「昨日約束はしましたが、今朝はお会いしている暇がないんです」
文脈から察するに、どうやらカバンを持って立っている方は、打合せか何かで事前にアポを取って訪問してきたようです。
その男のフキダシは空欄になっていて、以下の中から選ぶようになっています。
①なぜ事前に言ってくれないんだ
②私が無理に頼んだのがいけなかったんです
③それは仕方ないですね
この場面の背景がよくわからないので迷うところはありますが、
とりあえず①~③のうちどれがあなたの考えにもっとも近いかを決めます。
2枚目を見てみましょう。
事故っている2台の車の横で、二人の男が立ち話をしています。
衝突の様子から、一方が強引な追い越しをしたことが原因らしいと推測できます。
左側の男の言い分は
「君が無理に追い抜こうとしたのが間違いだよ」
どうやら、あなたの方に非があるようです。
右側のあなたのフキダシの選択肢は以下の3つです。
①今更そんなことを言っても後の祭りだ
②誠に申し訳ございません
③とやかく言っても仕方がないからゆっくり話し合おう
どちらの絵も①を選ぶと他罰、②は自罰、③は無罰というのはなんとなくわかりますよね。
一般的には、状況に応じて①~③を使い分けることができれば、社会的に適応しやすい人と判断されます。
しかし、状況に関係なく①か②に偏りがちな人もいます。
過去の研究から、家庭内暴力を振るう人は①の他罰傾向が強く、
強いうつ症状を示すアルコール依存症患者は②の自罰傾向が強いことがわかっています。
京都大学の苧坂直行らは、fMRIでこの時の脳の活動を調べました。
他罰傾向の人は、「腹外側前頭前野」が活性化しました。
「外」ではなく「内」の方、すなわち「腹内側…」については、このブログで何回もやりましたよね。
今回は「腹外側…」ですが、どちらも専ら怒りに関係する部位であることがわかっています。
ということは、他罰を主張する人の心の奥底には、他者に対する怒りが渦巻いていることがわかります。
一方、自罰傾向の人は「背外側前頭前野」が活性化しました。
「背外側…」は不安を感じる部位ですが、他にも道徳的な葛藤を与えると盛んに働くことが知られています。
ということは、おそらく他者への怒りを抑えているのだと考えられます。
人格者ですよね。
しかし、別の解釈もできます。
すなわち、他者への怒りが極度に抑制されると、自己に対する攻撃の原動力になってしまう・・・。
どちらがいいとか悪いとかではなく、要するにバランスが大切なのです。
もっと面白いことも分かりました。
先ほどの2枚の絵ですが、心理学的には全く異なる意味を持っているそうです。
1枚目は学術用語では「自我阻害」と言って、自己の目的や願望が阻害されている場面です。
2枚目の事故の絵は、自我の前に「超」がついて「超自我阻害」と言います。
これは自尊心が阻害されていることを意味します。
1枚目と2枚目では、脳の違いはどうだったのでしょう。
1枚目の絵、すなわち自己の目的や願望が阻害される場面では、
脳の中の共感や他者の意図を推定する機能を担っている部位が活性化しました。
これは、絵の中の主人公に感情移入していると考えられます。
では2枚目の絵、自尊心が阻害される場面ではどうでしょう。
このときは、高次の認知処理を行うワーキングメモリーが活性化しました。
つまり感情移入はせず、そのかわり一生懸命頭の中で様々な解決策を模索して、
脅かされる自尊心の回復を試みているのです。
このことから、部下指導の際の重要なポイントが明らかになりました。
それは、部下がミスをしたときには、自尊心を傷つけるような発言は絶対にしてはならないということです。
特に、自責傾向のある部下の場合は、細心の注意が必要です。
では、他責傾向の部下はどうしたらよいでしょう。
ここは一発ガツンと食らわして、「お前のせいだ」ということを嫌というほどわからせたい。
その気持ちは分からないでもないですが、これもやめましょう。
ゴールは、あなたの日ごろの憂さを晴らすことではありません。
部下の行動を変えることです。
私が注目したいのは第三の無罰です。
最初にするべきことは、責任の所在を明らかにすることではありません。
解決策を探ることです。
なぜなら、本人もそれを一生懸命考えている最中だからです。
そして、解決策にメドがついた時点で、次のステップとしてそもそもの原因が何だったかについて
じっくり本人に考えさせましょう。
あなたが指摘してはいけません。
しかも、自分に落ち度があったことに気づいたからといって、それを責めてはいけません。
その次に指示すべきは、再発防止策の検討です。
このように、解決策にメドがついた後で、原因と再発防止策について
あえて本人に考えさせることにより反省はさらに深まります。
そして、そのことが行動変容に繋がっていくのです。
でもこのやり方って、人望のある管理職ならば昔からしていたことですよね。
脳科学の進歩によってもたらされたのは、新しいマネジメント手法の発見ではなく、
過去から語り継がれてきた手法の正当性の証明でした。
これを契機にマネジメント理論というものが、経験に基づく物語という「社会科学」から脱却し、
将来的に脳機能学的事実に基づく「自然科学」として確立されることを望みます。
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