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5☆s 講師ブログ

金持ち天国ニッポン

何度聞いても、その意味が理解できない言葉があります。
「一億総活躍社会」

日本の全国民が活躍する社会って、一体どんな状態のことを言うのでしょう。
想像がつきません。
だいたい自民党だって、安倍首相しか活躍していないではありませんか。

一方イメージしやすいのは、ちょっと前まで言われていた「一億総中流社会」。
しかし、それは高度成長期のこと。
今はどうなっているのでしょうか?

2011-12年のOECD加盟24カ国の比較をみてみましょう。
ノルウェーがもっとも格差が小さく、逆にもっとも格差の大きいのはメキシコです。
日本はというと、下から6番目つまりワースト6で、
先進国で日本より格差の大きい国はアメリカとイギリスしかありません。

いまや日本は、国民のうちの大部分が下流に沈み込む、
世界トップクラスの貧富の格差大国になってしまいました。
もはや「一億総中流社会」ではなく、「一億のほとんどが下流社会」なのです。

貧しい若者が一発当てて貧民層から脱出し、大金持ちになるというストーリーを「アメリカン・ドリーム」と言いますが、
今やこんな夢を見る権利を有するのはアメリカとイギリス、それに日本くらいのものです。
他の国はもっとずっと平等です。

2014年12月にOECDが発表した『格差と成長』というレポートは、
世界で進む貧富の格差について、その問題点と解決策を4つにまとめています。

①富裕層と貧困層の格差は今や過去30年間で最大で、経済成長を大幅に抑制している
②下位40%の所得層は教育に十分な投資ができていない
③租税政策や移転政策による格差への取り組みは成長を阻害しない
④再分配の取り組みは、子供のいる世帯や若年層を重視して技能開発や学習を促進すべきである

わかりやすく翻訳するとこうなります。
「貧富の差が広がったため経済は停滞している。
それを解決するためには、広く子供や若年層の教育に力を入れて国民全体の能力を底上げすることが必要である。
その財源は、お金持ちからがっぽり税金をとっても問題ない」

かつての日本は、お金持ちからがっぽり税金を巻き上げる国でした。
今や死語となった「累進課税」という四字熟語を聞いたことがある人もいるでしょう。

1983年までは、国税である所得税の最高税率はなんと75%でした。
しかも19段階とかなりきめ細かかったのです。
その後、税率は段階的に引き下げられ、1999年には最高税率はなんと37%という低水準になりました。
金持ちにとっては“超”がつくほどの天国となったのです。
さすがにこれはやり過ぎだと、現在は45%に揺り戻されています。

アメリカは39.6%で1999年頃の日本と同じような水準ですが、その推移もまた日本とよく似ています。
1920年代はわずか24%でしたが、ルーズヴェルトが大統領になった頃には63%まで上がり、
彼の第二期には79%に達します。
冷戦時代は、戦費調達のため91%という時期もあったそうです。
1980年までは15段階の最高70%と、これまた日本とそっくりです。

クルーグマンによると、税率が高く格差が圧縮されていた時代は、
ちょうど移民に対して市民権が与えられていく時期と一致するそうです。
格差圧縮政策が取られていたのは、選挙に勝つためだったとも言えます。

では、なぜ両国が突然宗旨替えをして、「金持ち優遇」の方向に舵を切ったのでしょうか。
それは、高額所得者の税率を引き下げることによって、
稼ぐ人にはもっとモチベーション高く仕事してもらうことが、国の活力につながると考えたからです。

平たく言えば、金持ち願望こそが国の発展の原動力というわけです。
レーガンやサッチャーの時代には、たしかにこの考え方が成功を収めました。

では、日本はどうでしょうか。
IT企業の経営者の中には「秒速で億を稼ぐ」人もいますが、
このような人たちが巨額の金を稼ぐことで日本の活力を作り出し、日本全体を元気にしてくれたのでしょうか。

残念ながら決してそうは思えません。
「一億総活躍社会」というスローガンは、おそらく国全体の活力アップを目指したものと思われますが、
「金持ち優遇」税制はかえって妨げとなっているのではないでしょうか。

ちなみに秒速で億を稼いだ社長は、儲けたお金に法人税がかかるとは夢にも思っていなかったため、
これまた秒速のスピードで会社を畳みました。

『昆虫ビジネス社会』の回でも触れましたが、私は金持ち願望を煽るよりも、
勝者が敗者に手を差し伸べる仕組み、つまり高額所得者から多くの税金を徴収して
貧困層のために使う仕組みの方が有効だと思っています。

このまま貧富の差がますます拡大すると、
いずれ資本主義の暴発を招くであろうことは、20世紀のあの大戦で学んだではありませんか。

ヒトラーは、「ユダヤ人の精神は拝金主義にある」と言ってユダヤ人の排除を始めましたが、これは大きな誤りでした。
拝金主義は、資本主義の精神そのものだったのです。

当時のドイツで貧しい人々の支持を集めて急激に台頭したのは、共産党とナチスでした。
ナチスの正式名称は、「国家社会主義ドイツ労働者党」。
ドイツ国民は、どちらかの選択を迫られたのです。
しかし、トロツキーに言わせれば「共産主義かファシズムかの選択は、サタンか魔王かの選択と同じようなもの」だったのです。

では、今の日本はどうなっているのでしょう。
日本では全く逆に、「金持ち優遇」税制をさらに推し進めようとしています。
消費税率のアップです。

消費税というのは、金持ち層にも貧困層にもまったく同じ税率が適用されるという、
金持ち層にとっては夢のような税制です。
貧困層から見れば、これほど「弱い者いじめ」の税制はありませんが、
最近これに対する批判的な新聞記事を目にすることはありません。

なぜでしょう?
それは、与党が新聞購読料に関して、生鮮食料品と同様に軽減税率を適用する素振りを見せているからです。

日本の新聞ジャーナリズムは、その程度の正義感しか持ち合わせていないのでしょうか?
すべての新聞記者は、現実を直視すべきです。
すなわち新聞というものは、生鮮食料品を包装するために使われることはあっても、決して生鮮食料品そのものではないということを。

しかも、リベラルを標榜している野党政党が、消費税率アップに諸手を上げて大賛成という
摩訶不思議な怪奇現象まで観測されています。

ヨーロッパの消費税率はもっと高いと主張する人もいますが、
ヨーロッパの国々は、おしなべて貧富の格差は小さいのです。
つまり、高い消費税率というのは、日本とは比べものにならないほどの手厚い社会保障が行われてはじめて成立するものなのです。

アメリカの場合は、最終消費者だけに課せられる売上税というのがありますが、
税率は州により 区々であり、中にはゼロという州もあります。

アメリカの場合は、税率が低い代わりに別の形で弱者救済が行われています。
寄付です。
最近、FacebookのCEOであるザッカーバーグが、
日本円にして5兆円を超える金額を寄付するという報道がありました。

たとえ動機が税金逃れだったとしても、多くの富が社会に還元されることは好ましいことです。
しかし、日本の大金持ちが財産の大半を寄付したという話は、寡聞にして存じ上げません。

税金は大して払わなくてよい。
寄付はしなくても、誰からも非難されない。
もしかしたら日本は、アメリカ以上の“金持ち天国”かもしれませんね。

私は格差是正のためには、以前のような角度のついた累進課税制度の復活が絶対に必要だと思っています。
しかし、ただ単に大金持ちからお金を巻き上げて、
それをそのまま貧困層に分け与えよと言っているのではありません。

世界一有名な新聞記者、ボブ・ウッドワードの著書『グリーンスパン』の一節を紹介しましょう。
1989年の下院銀行委員会で、当時のグリーンスパンFRB議長は
民主党のバーニー・サンダース議員からこのような質問を受けます。

「世界の金持ち上位225人の資産合計は1兆ドルに達するが、これは世界人口の下位47%の人々の資産合計に匹敵する」

これに対して、グリーンスパンはこう答えます。
「その225人を拘束し、資産を没収し、無人島に置き去りにしても世界がよくなるとは決して思わない」

仮に225人の1兆ドルを没収し、30億にも達する下位47%の人々に分け与えるとしましょう。
彼らの生活費は1日2ドル以下。
たとえ毎日1ドルずつ配ったとしても、たった1年で財源は底をついてしまうのです。

必要なのは施しではありません。
金持ちから巻き上げたお金は、教育に投資すべきです。
貧困家庭に育ったために高度な教育が受けられない、などという悲劇は絶対になくさなければなりません。

2010年、当時の関西社会経済研究所が行ったアンケート調査によれば、
年収が1500万円以上の世帯では、39.0%が子供を旧帝大や有名私大、医学部などの難関大学に進学させているのに対し、
400~500万円の世帯ではわずか6.5%です。
つまり、塾や予備校への支払い能力が、子供の偏差値を決定する主たる要因となっているのです。

福沢諭吉は『学問のすすめ』の中でこう言っています。

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。
(略)人は生まれながらにして貴賎・貧富の別なし。
ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり。

資本主義社会に生きている限りは、福沢諭吉の言うように
本人の努力の結果として、格差が生じるのはやむを得ないことです。
しかし現実には、努力の前段階である「教育を受ける機会」にすでに格差がついているのです。

残念ながら、生まれたときから人の上には人が造られていて、人の下にも人が造られています。
学問を勤めようにも、下流に生まれた人間には大きなハンデがあるのです。

このハンデを解消するためには、返還義務のない奨学金制度や、学費全額免除などの制度を充実させる必要があります。

OECDが指摘するとおり、技能開発や学習を受けた子供や若者たちこそが国の財産です。
技能開発や学習の機会を提供できるのは、教育しかないではありませんか。

「一億総活躍社会」を目指すのなら、国の活力の源泉が一体何なのかをよく考えるべきです。
源泉は断じて、“金儲けのモチベーション”ではないはずです。

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