株式会社ファイブスターズ アカデミー
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その時の研究のテーマは、「人はどんな時、無気力になるか」でした。
しかし、人体実験に踏み切るだけの勇気がなかったので、実験対象はもっぱら犬でした。
まず、音や電気ショックなどの不快な刺激を与えます。
その刺激は、犬がどんなことを試みようと止むことはなく、その代わり何もしなくても唐突に止んだりします。
一度この条件づけをされた犬は無気力になってしまい、
次に自分で刺激をコントロールできる仕掛けに入れられても、一切抵抗をしなくなります。
「抵抗は無駄である」と学習するわけです。
このテーマに興味を示したのが、オレゴン州立大学の日系人大学院生ドナルド・ヒロトでした。
まず最初に、被験者を部屋に案内します。
部屋にはパネルがあります。
そこで被験者は、パネルのボタンを押せば音を止められるのではないかと考えます。
しかし、何通りもの組み合わせに挑んだ後で、それが全く無駄な抵抗であることを悟ります。
次に、彼らを第二の部屋に案内します。
ところが、一旦抵抗が無駄であることを学習してしまった人たちの大半は、
第二の部屋ではもう何の試みもしようとしないのです。
では、抵抗が無駄であることを学習しなかった場合はどうなるのでしょう。
この結果を伝えるヒロトからの興奮した電話を受けたセリグマンは、
無気力は学習によって生まれるものだという確信をますます強めました。
そして、ついにその時は訪れます。
会場の雰囲気は非常によく、セリグマンはかなりの手応えを感じますが、やがてあることに気づきます。
周囲を威嚇するように見回し、彼のジョークにも一切笑わないばかりか、
いくつかの重要な点には首を振って、はっきり「ノー」の意思表示をしているではありませんか。
スピーチは温かい拍手とともに終了し、
残されたセレモニーは、“討論者”に指名されている教授から儀礼的な言葉を送られるだけとなります。
ところが、あろうことか討論者として立ち上がったのは、
その“ミスター・ノー”ことジョン・ティーズデールだったのです。
「講演者の理論は全く適正を欠くものです。
セリグマン氏は、研究対象となった人間のうち
1/3は無力状態にならなかったという事実をうやむやにしています」
確かに彼の言うとおりでした。
さらには、その逆の事実も指摘されました。
つまり、この人たちはハナから無気力だったと考えられます。
そして、この1/10という比率もまた、犬の実験と同じでした。
セリグマンは狼狽のあまり呆然と立ち尽くします。
世の中にはなぜ、3割のオプティミストと、1割のペシミストがいるのだろうか?
一方その頃、産業心理学の分野ではちょっと困ったことが起きていました。
仮説はこうです。
ところが、実際にいくらヒアリングを重ねてもそういう結果が得られないのです。
出てくる答えは、
「もともと自分が幸福だと感じている人は成功確率が高い。だから成功してより幸せになる」
というものばかりでした。
その後この、いつでもポジティブな考え方を持つオプティミストに関する研究は大きな潮流となり、
『ポジティブ心理学』という分野として結実します。
2005年には、ソーニャ・リュボミルスキーらの驚くべき報告が発表されました。
考えてみると、思い当たる節があります。
でも、自分を幸福だと感じている人は、一生懸命打開策を模索します。
ところで、この幸福感というのはどこからくるのでしょう。
ポジティブ心理学派のクリストファー・ピーターソンの著書に、興味深い表が掲載されています。
それは実に意外なものです。
相関性が全く認められないか、あるいは認められても非常に低い項目は、
「年齢、性別、収入、地位」でした。
年齢や性別に関しては理解できますが、収入や地位はちょっと意外な感じがしますよね。
でも、収入がゼロではダメなのです。
では、高い相関性が認められた他の項目を見てみましょう。
楽観性はそのまんまですよね。
ところが最近の若い人たちは、なぜかこの自尊感情が乏しいように感じます。
私が、特に声を大にして言いたい項目は「感謝」です。
問題発生は、学びのチャンスかもしれません。
ですので極端な言い方をすると、「問題を与えてくれたことに感謝する」くらいの気持ちを持ちたいものです。
とは言うものの、
「あなたの人生は幸せですか?」
「あなたは人生に満足していますか?」
といきなり問われて、即答するのは難しいかも知れません。
でも私は、「幸せ」と即答できます。
退院した翌日、一緒に朝ご飯を食べていたときのことです。
ごくありふれた普通の日常を、ごく普通に迎えられることがこんなにも幸せなことだったとは!
1964年の東京オリンピックの年に、坂本九が歌って大ヒットした『幸せなら手をたたこう』。
もともとはスペイン民謡ですが、早稲田大学名誉教授の木村利人が学生の頃、
ボランティアで訪れていたフィリピンでこの歌を耳にして日本語訳をつけたそうです。
ところがこの歌、英語の詞では
“if you’re happy and you know it clap your hands”
となっています。
直訳すると
「あなたが幸せで、それをあなたが知っているなら、手をたたこう」
なのです。
もしかしたらこの歌は、幸せになることよりも、
今が幸せであることに気づくことのほうが難しいということを、私たちに教えてくれているのかも知れません。
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