株式会社ファイブスターズ アカデミー
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スポーツで目覚ましい成果を上げた人が、よくビジネスパーソン対象の講演会の講師に招かれます。
スポーツとビジネスは、そんなに共通点が多いのでしょうか。
個人競技はどうかわかりませんが、団体競技の監督とビジネスの管理職に関しては、
組織マネジメントという面で確かに共通するところはありそうです。
かつてスポーツの世界では、「鬼」と恐れられるほどの怖い監督が多くいて、厳しい練習に明け暮れたものです。
しかし、近年はスポーツにも科学的な理論が取り入れられて、「根性論」はすっかり影を潜めてしまいました。
それに伴い、監督のマネジメント方法もずいぶんと変わったように感じます。
特に最近はプロだけでなく、学生などのアマチュアスポーツにおいてもテクニカルコーチなどとの分業化が進み、
監督の仕事は全体的なチームのマネジメントが中心になりました。
監督のマネジメントというと真っ先に思い出すのが井上監督。
高校女子バスケットの強豪校、名古屋の桜花学園高校の井上眞一です。
なんとインターハイ、選抜優勝大会、国民体育大会などの全国大会で50回以上優勝に導いた名監督で、
バスケットの世界では知らない人がいないという人物です。
現在の女子日本代表メンバーの中にも、渡嘉敷選手はじめ桜花学園高校の出身者は数多く名を連ねています。
さぞ怖い監督として生徒から恐れられているのかと思ったら、まったく違いました。
さすがに、練習中は緊張感に満ちた指導が行われています。
しかし、練習が終わると一変するのです。
監督は合宿所で生徒達と一緒に夕食をとるのですが、そこで生徒たちから「アイスを奢って」と懇願されたりするのです。
「アイス!アイス!」と全員の催促コールが鳴り響く中、しようがないなという表情で井上が頷くと、
食堂は拍手と歓喜に包まれます。
この場面だけ見たら、これが毎年全国優勝を義務付けられているような強豪校とは誰も思わないでしょう。
いや、弱小校でもこれほどフレンドリーな監督はめったにいないはず。
井上がこのユニークな指導法に気づいたのは、大学を卒業して愛知県の中学校教師として赴任した年に遡ります。
女子バスケット部の顧問教諭として意気揚々と臨んだ大会で、なんと100点差をつけられて負けてしまいます。
バスケットの世界で100点差というのは、それはもうとんでもない実力の差を意味します。
野球なら20点差のコールドゲーム、サッカーなら10点差といった感じでしょうか。
一念発起した井上は、とてつもなく厳しい猛練習を課します。
自らが鬼となって檄を飛ばし、ミスをした選手は容赦なく叱り飛ばします。
しかし、なぜかチームは一向に強くなりませんでした。
秋が深まる頃、転機が訪れます。
日の暮れが早くなり、練習が終わる頃には辺りはすっかり暗闇に包まれます。
女子生徒に万一のことがあってはいけないと、井上は毎日自分のワゴン車に生徒を乗せて家まで送り届けました。
その車内でのことです。
思春期の女子中学生を大勢乗せての話題と言えば、それはもう「恋バナ」しかありません。
サッカー部の○○君がカッコイイとか、やれテニス部の△△君の方がいいとか・・・
取りとめもない、しかし実に楽しい会話で大盛り上がり。
勢い、若くして赴任した先生には彼女がいるのかと、話題は井上に飛び火します。
この会話が先生と生徒の心の距離を一気に縮めました。
一体感が生まれたチームは急成長します。
そして、翌年の夏の大会ではなんと全県優勝してしまうのです。
まさに奇跡です。
同じ生徒が、育て方ひとつでこれほど変わるものでしょうか。
監督と選手の「心の距離」が近ければ近いほど、選手は伸びるのです。
箱根駅伝で大活躍している、青山学院大学陸上競技部の原監督を見てもそれを感じます。
また、先日リオ・オリンピックの切符を手に入れたサッカーU-23代表監督の手倉森監督は、
選手からは親しみをこめて「テグさん」と呼ばれているそうです。
しかし、ビジネスではどうでしょうか。
かつて職場の上司というものは、夜の居酒屋でも相変わらず上司でした。
主に「命令と服従」で成り立っている上司と部下の関係性は、職場を離れてもまったく変わりませんでした。
しかし、このマネジメント手法は今ではパワハラの一歩手前の段階と考えられ、
もっともリスキーなものと言っていいでしょう。
スポーツの世界でいう、“しごき”に相当します。
「いや、そんなことはない。居酒屋ではもっとフレンドリーだ」という管理職にお伺いします。
居酒屋で、あなたを中心にして拍手や歓声が湧き起こることがありますか?
もしNOならば、部下を居酒屋に誘ってはいけません。
その程度の中途半端な求心力しか持ち合わせていないくせに、
職場以外の場所で部下に教訓めいたことを諭したりしてはいけないのです。
「いろいろ教えてもらえるので、飲み会もためになります」などという、
ミエミエのおべんちゃらを真に受けているようでは管理職失格ですよ。
そもそも、飲み会の席でも仕事の話しかできないような、
メリハリの全くないマネジメント自体がきわめて問題なのだと心得てください。
今はそんな時代なのです。
部下は皆、一定の能力を持っています。
管理職のマネジメント力がどうであれ、その能力までは発揮します。
しかし、それは管理職にとって到底満足できるレベルではありません。
例えるならば、100点差で試合に負けるようなレベルです。
でも、よく考えてみると、部下の“顕在”能力を発揮させることが管理職の仕事ではありません。
なぜなら、それは管理職がいなくても発揮できるからです。
管理職の仕事は、部下の“潜在”能力を引き出して、より高いレベルの仕事をさせることです。
そのとき重要な意味を持つのは、上司の厳しい指導や教訓話ではなく、上司と部下との心の距離なのです。
この距離が縮まり、組織に一体感が生まれた時にこそ部下の潜在能力が引き出され、
結果としてチームはとんでもないパワーを発揮するのです。
心の距離を縮める方法ならば、飲み会以外にもたくさんあるではありませんか。
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