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5☆s 講師ブログ

パワハラ考

ついこの間まで「セクハラ」対応で大騒ぎしていた職場マネジメントが、
今度は「パワハラ」問題に振り回されています。

遅刻した新入社員を怒ったら、「課長、それってパワハラですよね」と反撃され、
すっかり及び腰になってしまった管理職もいます。

その上、最近は「マタハラ」や「スメハラ」などの新種も出現し、
管理職にとって職場は、さながら“地雷原”の様相を呈してきました。
しかし、一体どこからパワハラになってしまうのか、その境界線は誰に聞いてもはっきりしません。

厚労省のワーキンググループによれば、パワハラは以下のように定義されています。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、
業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

理屈としてはわかりますが、現場を預かる立場の人間にとっては、
具体的に何がセーフで、何がアウトなのかを知りたいところです。

しかし、その一覧表はどこにも存在しません。
一方、パワハラ裁判の件数はうなぎ登りに増えています。

となれば、答えはカンタン!
多くの判例を集めてくれば、その境界線が自ずと浮かび上がってくるはずです。

厚労省のHPに『あかるい職場応援団』というサイトがあります。
パワハラに該当するケースと、該当しないケースの動画がアップされていて、きわめて分かりやすい内容です。
また、多くの判例が弁護士の解説付きで掲載されていて、実に有益なケーススタディとなっています。

ただ、残念ながら問題もあります。
恐らく当該企業からのクレームが原因と思われますが、
ある日突然その判例記事が削除されてしまうことがあるのです。

今回紹介するのは、すでに削除されてしまった記事ですが、平成25年6月に仙台高裁が示した判断です。

仕事のできない部下に対して、上司が
「何でできないんだ」、「同じ事を何回も言わせるな」、「そんなこともわからないのか」と
繰り返し発言したことが原因で、うつ状態になったとして損害賠償請求の訴えがありました。

結論から言うと、このケースはパワハラとは認定されませんでした。
なぜ、パワハラではなかったのでしょうか?

弁護士の解説欄に、ポイントが三つほど挙げられていました。
1.指導があったのは業務上のミスがあった時だけ。
2.指導は5~10分の短時間だった。 
3.すべての部下に対して、公平に同じような指導をしていた。

この三つのポイントさえクリアーしていれば、
あらゆるケースでこの発言がセーフになるかどうかは定かではありませんが、
多くの判例から分かることは、本人が不快な思いをしたというだけではパワハラには認定されないということです。

パワハラと認定されるには、もう一つの要件が必要なのです。
それは、「業務上、指導する必要性があったかどうか」ということです。

これがセクハラとの決定的な違いです。
セクハラは、もともと業務上の必要性がないことなので、本人が不快な思いをしたというだけでアウトです。

このケースでは、仕事のできない部下を指導するという業務上の必要性が認められたので、
パワハラとは認定されなかったわけです。

ただ、いくら業務上の必要性があったとしても、人格を否定する言葉遣いはアウトです。
例えば「小学生でも分かる」とか、「係長失格だ」などの発言はダメです。

ただ、どの発言がアウトで、どの発言がセーフかという議論は、実はあまり意味がありません。

そもそも会社というのは、仕事のできない人、つまり仕事のパフォーマンスが給料に比べて大きく見劣りする人たちが、
何のストレスを感じる事もなく、快適に過ごせる場所となることを目的に営業しているわけではありません。
そして、管理職の仕事のゴールもまた、「部下に不快な思いをさせないこと」ではありません。

企業は利益をあげるために営業しています。
管理職の仕事のゴールは、組織員の能力を最大限に発揮させて、期待された成果を創出することです。
ただ、その過程でパワハラがあってはならないということです。

つまり、マネジメントの目的は、パワハラを避けることではなく、
部下が成果を挙げられるように指導・育成することです。
パワハラにならないように言葉遣いに注意するあまり、部下が全く育たないなどという事態は本末転倒なのです。

振り返ってみれば、私が社会人になった頃の職場は、
部下を育成するためとは言え、もっと過激な言葉が飛び交っていました。
しかし、不思議なことに、それが問題となることはほとんどありませんでした。

なぜ、あの頃は問題にならなかったのでしょうか。
と言うより、なぜ、みんな上司の暴言に耐えることができたのでしょうか?

もちろん、パワハラに対する社会的な問題意識が形成されていなかったとか、
転職マーケットが整備されていないので、我慢せざるを得なかったこともありますが、
私は日本全体が右肩上がりだったことが大きかったと思います。

先輩の背中を見ていれば、あと何年我慢すれば昇進できるとか、
昇進すれば給料がどれくらい増えるかなど、だいたい予測できました。

しかし、バブル崩壊後の長期に及ぶデフレにより状況は一変します。
昇進しても給料は大して上がらず、かといって昇進しなければ給料が年々減っていくという
驚愕の事態が訪れたのです。

お手本とすべき年の近い先輩も、長年にわたる高い離職率と低い新卒採用数のシナジー効果により、
新入社員の半径10メートル以内にはひとりも見当たりません。

ところが、労働環境がこのように激変しているにもかかわらず、管理職の手元にあるのはただひとつ。
過去に自分が洗礼を受けた「怒るマネジメント」スキルだけでした。

さらに、成果主義が導入されたおかげで、プレッシャーはますます強くなるのに、
デフレのせいで売り上げは一向に上がらない。
ここに至り、パワハラが問題化する温床が整ったのです。

今、日本の職場マネジメントに必要なのは、パワハラにならないための事例集ではありません。
感情にまかせた、伝統的な「怒るマネジメント」からの脱却です。
もっとはっきり言うと、まったく新しい「叱るマネジメント」を習得することです。

えっ?
そんなものがあるのかって?

あります。
アメリカでは随分前から開発されています。

このテクニックは、部下の行動を修正すると同時に、なんと部下のモチベーションまで上げていきます。
現代は「怒るマネジメント」ではなく、「叱るマネジメント」でなければ部下は育成できないのです。

私が、この「叱るマネジメント」による育成にこだわるのには理由があります。

先ほどの仙台高裁の判決ですが、パワハラとは認定されませんでしたが、会社は敗訴してしまいました。
というのは、裁判の中で長時間労働が発覚し、それがうつの発症と関係があると認定されたからです。

このように、たとえ言葉遣いの面ではセーフになったとしても、
管理職のマネジメント能力が低いことによる「安全配慮義務違反」に問われ、
結局違法と判断されて敗訴するケースが結構多いのです。

パワハラにならないように、日頃から発言や言動に注意することも必要ではありますが、
もっと重要なのは、部下を期待されるレベルまで育成することです。
パワハラ防止の前に、まずは管理職がキチンとしたマネジメント能力を身につけることです。

パワハラ問題に関する大いなる誤解は、まさにこの点にあります。
裁判で争われるのは、管理職の言葉遣いではありません。
あくまでも管理職のマネジメント能力なのです。

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