株式会社ファイブスターズ アカデミー

「心理学」という言葉を分解したらと聞かれ、「心理／学」すなわち「心理」を研究する「学問」だと答えたら、
意外にも間違いでした。
正しくは「心／理学」なのだそうです。
これは、「心（ココロ）」の「理学」を研究することを意味します。

理学とは、自然の原理を研究する学問のことを言います。
大学の学部に理学部というのがありますが、
「自然がどうなっているか」を研究する学問の総称が「理学」なのだそうです。
ちなみに、「どうやって実現するか」を研究する学問が「工学」だそうです。

ですので、物理学は当然「物理／学」ではなく、「物／理学」となり、物質の原理を研究する学問ということになります。
実は、「心／理学」は「物／理学」の対比として名付けられた学問で、
物理学が物（モノ）の原理を研究するのに対して、心理学は心（ココロ）の原理を研究する学問なのです。

心を特殊なものとは考えずに、学問として純粋にその働きを解明しようという試みは昔から盛んで
グスタフ・フェヒナーという学者は、知覚という心の作用を客観的に分析する学問として
『精神物理学』なるものを提唱したほどです。

科学の目覚ましい進歩により、物（モノ）の原理はかなりのレベルまで解明されています。
例えば、物質の持つエネルギーに注目してみましょう。

今、私が、目の高さに本を持ち上げます。
この時、この本はエネルギーを持っています。

位置エネルギーです。
位置エネルギーは、地表付近の重力加速度をｇとすると、
「質量×高さ×ｇ」で求められます。

次に手を離します。
当然、本は落下しますよね。

この時、位置エネルギーは運動エネルギーに変換されます。
本は地球の引力に引っぱられて落下します。
その運動エネルギーは、質量に関係なく重力加速度で表すことができます。
すなわち、９．８メートル毎秒毎秒です。

そして、本は床に落ちます。
この瞬間、運動エネルギーは熱エネルギーに変換されます。
熱エネルギーは、ジュールという単位で表すことができます。

どうですか？
物質の動きやエネルギーは、ほぼ完全に解明されています。

ところが、人の心はどうでしょう？
心の動き、心のエネルギーはどのくらいわかっているでしょうか？

あなたの発した一言は、周りの人の心にどんなエネルギーを与えているのでしょうか。
もしかしたら、エネルギーを奪ってしまったり、
あるいは逆にマイナスのエネルギーを与えてしまっているかもしれません。
「心／理学」とは、まさにそれを研究する学問です。

近年の著しい脳科学の進歩により、このエネルギーには
脳のどの部位が関係しているかとか、どんな脳内情報伝達物質が関係しているかなどがわかってきました。

さらには、心のエネルギーに影響を与えるのは、言葉だけでないこともわかってきました。
態度なども影響しています。

もちろん、部下に仕事の指示をする時、話の内容がキチンと伝わっているかどうかは最も重要なことです。

しかし、それだけでは不十分なのです。
部下が指示された仕事にモチベーション高く取り組むかどうかは、
むしろ話し方や、話す時の態度と関係しています。

指示の内容が理路整然としているかどうかは「論／理学」の守備範囲ですが、
指示を受けているのは生身の人間です。
機械ではありません。

それなのに、なぜ人は論理（ロジック）ばかり気にして、「心／理学」に注意を払わないのでしょうか。
飲み屋で必ず聞こえてくるサラリーマンの愚痴があります。

「あの課長は人の使い方を知らない」
「人の気持ちが全然わかっていない」
よく聞きますよね。

でも、不思議なことに、
「あの課長は、指示の仕方が論理的でない」
という不満はほとんど聞きません。
やはり問題になっているのは「心／理学」であり、「論／理学」ではないのです。

そもそも、物事を論理的に考えることのできない人は、管理職に登用されません。
論理的な思考ができることは、管理職の必要条件の中でも極めて重要な要素です。
しかし、必要条件ではありますが、十分条件ではありません。

日本のマネジメントに足りないのは、その十分条件の方なのではないでしょうか。
逆に言えば、そこを向上させればマネジメントは最強になります。

今日から、書類だけ見つめながら指示を出すのは止めて、相手の目を見てにっこり微笑んだり、
最後に「頼りにしてるぞ」と一言付け加えてみませんか。

それだけで、部下のパフォーマンスは随分違ったものになるはずです。
部下と接する時、心のエネルギーレベルという視点を頭の片隅に置いておくだけで、
あなたのマネジメントもまた、随分と違ったものになるはずです。