株式会社ファイブスターズ アカデミー
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フランケンシュタインとは、あの顔に継ぎ接ぎがあるモンスターの名前だとばかり思っていました。
そうではなく、墓を掘り起こしては数々の死体を繋ぎ合わせてこの怪物を作った、
いわば生みの親である科学好きの大学生の名前だそうです。
では、この怪物の名前はというと、それがわからないのです。
そもそも小説では、名前が与えられていません。
18才のメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィンが、スイスのレマン湖の畔で、
うち続く長雨の退屈しのぎにこの物語を創作したのは、今から約200年前。
原作には、怪物の名前どころか、顔に継ぎ接ぎがあったとも書かれていません。
つまり、その後作られた映画やアニメが、この怪物のイメージを決定づけてしまったと言えます。
この物語は、いわゆるホラー小説などではなく、科学の進歩に対する警鐘として書かれたものです。
それが、おどろおどろしく演出された背景には、
おどろおどろしい人間関係があったことが少なからず影を落としています。
メアリーは14才の時、妻子のいる男性と道ならぬ恋に落ちます。
不倫相手の詩人、パーシー・シェリーは「正妻も交えて三人で仲良く暮らしたい」と、
とんでもない提案をしますが、受け入れられるはずもなく、 二人はイギリスを離れヨーロッパに駆け落ちします。
ドイツでいくつかの観光スポットを巡ったことが、この作品のモチーフになったのは間違いありません。
決定的だったのは、有名な錬金術師ヨハン・ディップルの偉業を展示した城を訪れたことでしょう。
墓を掘り起こしては死体を集めて実験していたという噂の残る謎多きこの人物の最期は、
自ら考案した“寿命の延びる油”を試飲して死んでしまうという異様なものでした。
この城の名前こそ「フランケンシュタイン城」と言うのです。
しかし、彼女がただの空想好きな少女と少しばかり違っていたのは、科学に興味をもっていたことです。
当時、ヨーロッパで大きな反響を呼んでいたのが、「ガルバーニ電気」です。
ほら、切断したカエルの脚に金属棒を当てると、脚が震えるというあの現象のことですよ。
今では、金属棒の素材が異なっていると、体液が電解液となって
一種の電池の役割を果たすことがわかっていますが、
当時は体が死んでも「動物電気」なるものが流れているのだと考えられていました。
この電気に少なからぬ関心をもったことが、創作の底流にあったことは確かです。
現にメアリーは、この電気を利用して死体を蘇らせる可能性について、第三版のはしがきで言及しています。
この風変わりな物語の執筆中に、メアリーはめでたく結婚するのですが、
それは正妻の自殺によってもたらされた恩恵でした。
晴れてシェリー夫人を名乗れるようになったにも関わらず
初版の 『フランケンシュタイン』はなぜか匿名で発表されました。
大スキャンダルの渦中の人物が書いたとなれば、
文学作品としての正しい評価が得られないと考えたのかもしれません。
しかし、この出版が頂点でした。
その後の彼女の人生は暗転します。
その年に娘を、翌年には息子を亡くし、そしてその3年後には
夫が帆船の遭難により見るも無惨な姿で発見されます。
そして、そんな夫婦をずっと支え続けた唯一の理解者がいたのですが、
それがなんと、あのスキャンダルまみれの詩人バイロンでした。
なんとなく彼女の人生と、それを取り巻く人間模様が、
モンスターそのもののような気がするのは私だけでしょうか。
いずれにせよ、200年経っても世界中の人々が主人公の名前を知っていること自体、
モンスター級であることは間違いありません。
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