株式会社ファイブスターズ アカデミー
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15年前に買ったポケット瓶が、いまだに封を切られることなく食器棚の一角に佇んでいます。
その名はラフロイグ。
ラフロイグの故郷である アイラ島は、佐渡島と同じくらいの大きさですがここで造られるモルトは名酒ばかり。
ウィスキーのロールスロイスと言われるラガヴーリンやボウモアも大変有名です。
私は飲んだことがありませんが、幻の酒ポート・エレンもアイラ島にあります。
なぜ幻かというと、現在は操業していないため倉庫に残ったストック分しか出回らないからです。
アイラ島はまさにウィスキー造りで成り立っている島です。
人口4000人に満たない小さな島ですが、ウィスキー産業が納める税金は年間で数百億円に上るそうです。
そんなに人気があるということは、さぞやおいしいウイスキーだろうと誰もが思いますが、
実はアイラ・モルトは大変クセのあるお酒です。
ピート香が非常に強いので、好き嫌いがはっきり分かれてしまいます。
私は比較的穏やかなボウモアでさえ、ジンジャーエールで割らないと飲めません。
なかでもラフロイグは、もっとも個性的なお酒で鑑定家の例えは強烈です。
曰く、「薬品臭い」、「口内消毒液」、「タールのよう」・・・。
どうですか?
これでもまだ、飲む勇気が湧きますか?
私がなぜポケット瓶にしたのか、そしてなぜ15年間も封を切らなかったのか、
いや切れなかったのか、おわかりいただけると思います。
えっ?
だったら、なんで買ったのかって?
まぁ、何というか、誰でも「怖いもの見たさ」ってあるじゃないですか。
ところで、ラフロイグのことを考えていたら、なぜかSさんのことを思い出しました。
強烈な個性の持ち主で、ひとりだけ異次元のオーラを放っていました。
とにかく仕事は抜群にできるのだけれど自分の意見を絶対に曲げず、
たとえ上司であろうと誰彼構わず容赦なく噛みつくので敵もまた非常に多い。
Sさんの部署との打ち合わせがあるときは、朝から緊張感に包まれていました。
「この数字は正しいのか?」などとギョロリと睨まれた日には、心臓が止まるかと思ったほどです。
その圧倒的な存在感は、そこら辺に掃いて捨てるほどいる”調整型”管理職の比ではありません。
しかし、こんな人だからこそでしょうか、出世は遅れ気味でした。
その後異動となり、Sさんの記憶もすっかり薄れた頃、彼の訃報に接します。
人づてに聞いた話では、仕事の鬼は胃ガンが進行して手遅れになるまで周囲の意見には耳も貸さず、
頑として医者に行こうとしなかったそうです。
ああいう不器用な生き方は、結構ストレスが溜まるのだろうなと妙に納得したものです。
どこの会社にも、ラフロイグのような、個性の塊みたいなサラリーマンがいるものです。
さて、このラフロイグ、いつ封を切ろうかと悩んでいたら、
田村隆一の『人』という詩の一節に絶好の言い訳を見つけました。
きみは
まだ若いのだから
ウィスキーを飲まないほうがいいと思うな
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