株式会社ファイブスターズ アカデミー

てっきり、「先生」が作ったものだと思っていました。

ティーチャーズという名のブレンデッド・ウィスキーです。
酒屋では、１０００円以下で売られている安いお酒です。

このウィスキーの創業者は、ウィリアム・ティーチャーという人です。
もちろん先生ではありません。

それどころか幼くして父親を亡くしたため、９歳の時には母親と同じ紡績工場で働かざるを得ませんでした。
つまり、名前とは裏腹に学校にはほとんど行っていないのです。

１１歳で仕立屋の見習いになった時、そこの親方夫婦が偉かったのです。
親方は、学問の大切さを知っていました。
作業場の片隅で、親方の奥さんが子供たちのために本を朗読してくれました。

後に彼は酒場を開いたのですが、”飲んだくれ”が嫌いだったらしく、
なんと客同士でお酒を奢り合うことを禁じました。
当時のスコットランドでは、この習慣こそが店の売上を押し上げていたのに、です。

酒場の経営者でありながら、「節酒に協力した」との理由で市当局から表彰されたのは
後にも先にも彼くらいのものでしょう。

これで驚いてはいけません。
なんと次には、酒場を禁煙にしてしまったのです。
商売としては絶対にマイナスなのに、なぜ彼はこんなことをしたのでしょう。

思うに、彼を突き動かしていたのは、ビジネス感覚ではなく、
来店した客には快適な空間を提供するという「信念」のようなものだったのではないでしょうか。

私たちは、ウィリアム・ティーチャーよりもはるかに長い期間、学校に通いました。
しかし、「信念」はいつ習ったのでしょう。

日々のビジネスは熾烈を極めています。
成果主義とは、別名「売上至上主義、利益至上主義」のことです。
みんなが売上アップ、利益アップのために不眠不休で努力しています。

こんなに厳しいビジネス・ウォーの真っ只中にあっても、
いまだにティーチャーズが根強い人気を保っている理由は、
その軽やかな飲み口だけではないはずです。

温かみさえ感じる丸みを帯びたボトルですが、酒屋で見かけるたびに
「おまえに信念はあるのか？」
と問いかけられているような気がして、ついつい背筋が伸びてしまいます。