ミラーニューロン
ここまで論じてきた「心の理論」ですが、最近は脳科学からのアプローチも盛んです。
現在、脳研究のトップランナーのひとりで、あの名著「脳の中の幽霊」の著者として知られる
ラマチャンドランは、ミラーニューロンの働きですべて説明できると主張しています。
ここから先は、ちょっと心理学っぽくなくなりますが、我慢してください。
私の個人的意見ですが、心の働きを脳機能で説明できなければ、
心理学は「科学」とは言えないのではないかと思っています。
ではまず、ミラーニューロンからご説明しましょう。
ある研究者がサルの頭に脳波計を接続して、人間がアイスクリームを食べている姿を見せました。
残念ながらこの実験は失敗でした。
なぜなら、サルの脳波の動きにはまったく変化が見られなかったからです。
そのため、今日は中止にしよう思いました。
彼は「今日はおしまい」という意味で、サルに向かってバイバイと手を振りました。
その時です。
脳波が激しく反応したのです。
このとき発火した細胞は、ちゃんと特定されています。
大変不思議なことに、この細胞は、なんとサルが自分で手を振るときに発火する細胞だったのです。
しかし、今回は、サルは手を動かしていません。
それなのに、なぜその細胞は発火したのでしょうか。
この説明はこうです。
手を振るという行為に関しては、自分がそれをやっている時も、
そして他人がそれをやっているのを見ているときも、
まったく同じ細胞が発火しているということです。
これがミラー・ニューロンの考え方です。
手を振るという行動だけでなく、ほとんどの行動について
それぞれ対応して発火する細胞があることが分かっています。
例えば、テレビでグルメレポーターが食べ物をおいしそうに頬張る時、
あなたの脳の、まさに「食べる」細胞が活性化しているのです。
だからお腹が空くのです。
そう言えば、スポーツの世界ではイメージトレーニングが盛んですが、
これはミラーニューロンの働きをうまく活用した方法です。
では、最後に整理しましょう。
もともとは「心の理論」のお話でした。
相手の心(意図)を推し量ることができるかどうかが問題でした。
相手のある動作を見たとき、自分がその動作をしたときと同じ細胞が発火することにより
相手の心(意図)を推測していると考えられる。
これがラマチャンドランの主張です。
なるほどわかりやすいですね。
次回は、脳の一体どこが活性化するのか、詳しくお話しましょう。