株式会社ファイブスターズ アカデミー
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かつて、これほどまでに不遜な態度のミュージシャンがいたでしょうか。
北の町にしては暑過ぎる真夏の昼下がり、ふらりと入った馴染みのジャズ喫茶で、
壁いっぱいに映し出される8ミリフイルムに目が釘付けになりました。
マスターが撮影してきたというモントルー・ジャズフェスティバル。
まず、ニールス・ヘニング・オルステッド・ペデルセンの指運に言葉を失います。
エレキギターよりも早くウッドベースを弾く光景を、生まれて初めて目撃しました。
ジャズって、本当に凄い!
画面が切り替わると、今度はサングラスをかけた、一癖も二癖もありそうな黒人が登場します。
そして、次の瞬間、彼のテナーが火を吹くや否や、会場は静まり返ったのです。
圧倒的なのです、何もかも。
生意気盛りの二十歳の私も含め、すべての聴衆が轟音と共になぎ倒され、
粉々に砕け散り、そしてその残骸が再び集まっては、新しい教祖の足もとにひれ伏します。
やがて、アドリブを吹き終えたその男は、悠然と両手を上着のポケットに突っ込んだまま、
思いっきり顎を突き出して会場を“睥睨”します。
私には、ドスの効いた彼の声がはっきりと聞こえていました。
「どうだ、お前ら! 聴いたか、オレ様の演奏を!!」
このとき、誰の心にもひとつの確信が生まれました。
コルトレーンの後継者は、この男、アーチー・シェップしかいないと。
個人的な見解ですが1950年代後半、正確に言うとマイルスがコルトレーンを加えた
自身のクインテットを結成した55年以降、モダンジャズは急速な進化を遂げたように思います。
ちょうど、公民権運動など人種差別への反対運動が盛り上がりをみせた時期と重なります。
当時の黒人ミュージシャンは、例外なく激しい人種差別を経験していますが、
アーチー・シェップは、演奏を通じてマルコムXを讃えるなど、
政治的活動という面では際立ってユニークな存在のジャズメンです。
もしかしたら、聴衆を睥睨する態度に、白人に対する優越感のアピールという意味があったのかもしれません。
フリー・ジャズに身を投じたり様々な変遷を経た後、21世紀に入り、
晩年のマル・ウォルドロンとの競演で、人生の年輪を感じさせる”枯れた”名演を披露します。
『追憶~レフト・アローン』。
かつてマル・ウォルドロンが、ジャッキー・マクリーンと共演したあの名盤と、あえて同名を冠したのです。
マル・ウォルドロンは、言わずと知れたビリー・ホリディの伴奏者。
『レフト・アローン』は、まさに彼女に先立たれ、ひとり残された哀愁がテーマのアルバムです。
なぜ、アーチー・シェップは、この曲をチョイスしたのでしょうか?
私には、その枯れた演奏の中になお、
黒人としての枯れていない熱い想いが燻っているように思えてなりません。
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